研究課題/領域番号 |
16H05692
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研究機関 | 国立民族学博物館 |
研究代表者 |
南 真木人 国立民族学博物館, グローバル現象研究部, 准教授 (40239314)
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研究分担者 |
田中 雅子 上智大学, 総合グローバル学部, 教授 (00591843)
佐藤 斉華 帝京大学, 文学部, 教授 (10349300)
森本 泉 明治学院大学, 国際学部, 教授 (20339576)
小林 正夫 東洋大学, 社会学部, 教授 (30225536)
名和 克郎 東京大学, 東洋文化研究所, 教授 (30323637)
Maharjan K.・L. 広島大学, 国際協力研究科, 教授 (60229599)
藤倉 達郎 京都大学, アジア・アフリカ地域研究研究科, 教授 (80419449)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 地震 / ネパール / 災害民族誌 / 耐震型住居 / 仮設住居 / 給付金 / NGO / コミュニティ |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、2015年4月25日に発生したマグニチュード7.8のネパール地震及びその復旧・復興のプロセスを契機に生起している、様々な立場の人々の様々なレベルでの社会再編を政府、政党、国際機関、NGO等が取り組む支援の様態や言説と接合させつつ明らかにすることである。2年目の本年度は、班員それぞれが、ヌワコート、シンドゥパルチョーク(南、佐藤)、ラスワ(渡辺、本多)、ゴルカ(小林)、カトマンドゥ(マハラジャン)、ラリトプル、バルディア、カイラリ(藤倉)、ソルクンブ(鹿野、古川)、カブレパランチョーク(丹羽)、ダディン(田中)、チトワン、マクワンプル(橘)、ドラカ(名和、カレル、藤倉)郡において20~30日程度の現地調査を行った。 調査では各地の復旧・復興過程における、被災者、被災地の国外在住者、宗教や人権、被災支援に関連するNGO、政府および地方自治体、非被災地の人びと、ODAや国際機関などの取り組みと役割および関係性の解明に焦点が当てられた。60万戸に上る全壊家屋の再建は、政府による耐震モデル型住居の提示・建築推奨とそれに従った場合のみ給付される住宅再建補助金の制度により、少しずつではあるが進んでいることが明らかになった。だが、被災以前の経済状況、支援してくれる海外やNGOとの繋がり、森林組合が管理する森林資源が豊富な所とそうでない所、トレッキング・ルートとそこから外れる所など初期条件の違いにより、復旧に大きな差が生じている。概ねどこも耐震モデル住宅を建築できる技術者や下働きの作業員が不足しがちで、住居再建の順番待ち状態が見られること、その日当も地域によって異なることが広域調査により判明した。他方、各地の避難キャンプは強制立ち退きされるなど縮小傾向にあるが、そこに留まる人びとのなかには起業したり、近隣の農地を買ったりなど定住化も進行している実態が把握できた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
地震後の復旧・復興の過程と社会再編の現状、それらの地域差および要因が、研究協力者を含む比較的多数の班員による被災地や周辺地域の現地調査を踏まえ初めて明らかになってきていること、またその成果の一部が『地理』9月号の「特集 ネパール 大地震後の地域と社会」において、南、マハラジャン、森本、丹羽、田中により報告されていることなどが「おおむね順調に進展している」と自己評価する理由である。加えて、煉瓦の需要の高まりと低地部タライにおける煉瓦製造の隆盛、中国・ネパール交易のコダリ・ルート閉鎖とラスワガディ・ルートへの変更に伴う物流の改変、国内労働需要の高まりと移住労働(出稼ぎ)の継続的な退潮傾向、住居再建に人手を取られることによる作付け面積の減少、複雑な復興支援関連組織の縦割り行政により遅延する歴史的建造物再建の問題と文化遺産は誰のものかという根本的な問い、地域の復興と再開発を考える住民組織の設立や権利に目覚めた女性たちの活動の盛り上がり、配偶者を亡くした人びとの再婚の男女格差(女性の再婚率の低さ)など、新たな論点やさらに精査すべき調査課題が浮き彫りになり、その解明に向けた研究が進められてきたことも、本研究の順調な進展を示すものといえる。
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今後の研究の推進方策 |
本年度の計画は以下の通りである。先ず年度初めに国立民族学博物館において第3回研究会を開催し、昨年度の調査結果の報告と議論をし、さらに最終年度であるため成果報告に向けた取りまとめと成果出版に向けた話し合いの機会を持つ。班員それぞれが15日程度の現地調査に出かけ、地震後4年目をむかえる各地の復旧・復興過程を追調査し、併せて本科研が措定した「ネパール地震は社会の平等性(包摂の程度)を高める方向に作用した」という理論仮説を検証するためのデータを収集し分析する。年度末には、成果出版の草稿を持ち寄った、最終の第4回研究会を開催し、2015年ネパール地震の災害民族誌を完成させる。 今後の研究の推進方策としてとくに重視していることは、それぞれが得た情報と知見を持ち寄る議論と定量的データの収集である。班員が各地に分散して調査する体制は、多様な実態を多面的に把握し報告できる長所につながる反面、個々の班員が他所を広域に見ておらず、例えば「波形鋼板を用いた仮設住宅での暮らし」といっても、その規模、大きさや恒久度において、イメージが個々で大きく異なることが昨年度の研究会で明らかになった。被災と復旧の具体的な現れ方が、高度や地の利に基づく生業形態の多様性やカースト・民族の差異などの地域特性によって、社会内の初期条件を論じる以前に異なり、調査者がイメージする被災と復旧の「像」も調査地のそれに影響されるからである。概況を知るための広域踏査は欠かせない調査項目であったと気づかされるが、それを始める段階ではない。次善の策として、映像等も用いた各地域の情報交換と議論をより綿密にし、定性的データに加え、比較のために定量的データも入手することを心がける。昨年度、建築技術者の日当に4倍もの差があることとその要因が明らかになったのは、そうした定量的データのおかげであり、今年度はさらにそれを徹底していきたい。
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