研究課題
本研究は、最近我々が同定した病原性Th2(Tpath2)細胞および二型自然リンパ球(ILC2)に焦点をあて、肥満誘導性喘息の発症・慢性化メカニズムを正確に理解すること、およびその予防法・新規診断ツール・治療法の足がかりを構築することを目的とする。平成28年度の一連の研究で、以下に示す3つの新知見を見出した。1. 肥満による脾臓ST2hi Tpath2細胞集団の増加:当研究室で構築済みの高脂肪食餌与による肥満マウスシステムを用い、肺および脾臓におけるTpath2/ILC2への影響について解析を行った。ILC2の形成については高脂肪食誘導性の肥満マウスでは顕著な影響は認められなかったものの、脾臓ST2hi Tpath2細胞は3倍程度に増加していることが明らかとなった。2. ACC1欠損マウスを用いたTpath2/ILC2形成、機能への影響解析:当研究室で確立済みのCD4-Cre/ACC1欠損マウスでTpath2細胞の形成、Vav-Cre/ACC1欠損マウスを用いてILC2の形成を、またタモキシフェン誘導性ERT2-Cre/ACC1欠損マウスを用いて、Tpath2・ILC2のサイトカイン産生能におけるACC1の役割について解析を行った。Tpath2細胞およびILC2の形成能・サイトカイン産生能はACC1欠損により著しく減少、低下することが認められた。この結果は炎症誘導能の強いTpath2細胞、ILC2の誘導にはACC1が必須であることを示唆している。3. ACC1欠損によるTpath2/ILC2誘導性喘息応答への影響解明:研究実績2により、Tpath2/ILC2の形成・機能にはACC1が必須の役割を果たしていることが明らかとなった。ACC1によるTpath2/ILC2誘導の喘息応答への影響について解析するため、両細胞集団によって炎症が引き起こされると考えられているパパインを用いたマウス喘息モデルを用いて検討を行った。2の研究実績と同様に、パパイン誘導性の喘息応答はACC1欠損により有意に抑制されることが示された。
2: おおむね順調に進展している
研究実績1から、食餌によって誘導される肥満によりTpath2細胞が増加することが示された。概要2では脂肪酸合成の律速酵素であるACC1がTpath2細胞およびILC2の形成・機能に必須であることを明らかにした。また、概要3ではパパインによる喘息応答マウスモデルを用いて解析を行ったところ、ACC1欠損により肺胞洗浄液中への好酸球浸潤は顕著に抑制された。実績の内容以外においても、ACC1トランスジェニックマウスではTpath2細胞が増加していることを見出している。これらの一連の研究成果から、肥満による細胞外の脂肪酸環境はTpath2細胞誘導に、ACC1を介した細胞内の細胞内代謝はTpath2/ILC2両方の誘導・機能に必須であることが明らかにすることができ、予定通りの進展状況であると考える。現在、学会発表や国際雑誌に論文投稿する準備も整っている。
平成29年度以降は、昨年度で得られた内容をさらに進展させ、(1)肥満誘導性喘息におけるTpath2の作用解析、(2)Tpath2/ILC2の形成・機能に必須の脂肪酸もしくは脂質代謝物の同定、(3)特定の高脂肪食によるTpath2/ILC2の形成・機能変化および喘息への影響の3点を軸に研究を推進していき、最終的にヒト(肥満患者)におけるTpath2/ILC2形成・機能における脂肪酸代謝および特定脂肪酸の役割解明へとつなげていくことを画策している。具体的には以下に示す推進方策の基、研究を進めていく予定である。(1)肥満誘導性喘息におけるTpath2の作用解析:平成28年度の研究実績により、肥満環境によりTpath2細胞の増加が認められた。この作用が肥満誘導性喘息に影響をもたらすかを解析するためTpath2細胞を欠損させたマウスでST2のリガンドであるIL-33誘導性の喘息応答について解析を行う。(2)Tpath2/ILC2の形成・機能に必須の脂肪酸もしくは脂質代謝物の同定:これまでの成果により、ACC1がTpath2/ILC2の形成・機能に必須であることが示された。ACC1は脂肪酸合成酵素であるため、ACC1によって合成された脂肪酸・脂質代謝物がこれらの細胞群をコントロールしていることが推察される。我々の研究室ではすでに脂肪酸の影響を解析する培養系を確立している。この培養系を用いて、どのような特徴を持った脂肪酸・脂質代謝物がTpath2/ILC2の形成・機能に必須であるか同定する。(3)特定の高脂肪食によるTpath2/ILC2の形成・機能変化および喘息への影響:マウス食餌は原料の種類により脂肪酸の含有量が大きく異なるため、(2)の結果を基に、Tpath2やILC2コントロールしうる脂肪酸代謝物を多く含む食餌をオーダーメイドで外注する。特定の高脂肪酸食を10週以上餌与することで、実際に生体内でTpath2やILC2の誘導・抑制状態や、喘息応答に対する影響について検討を行う。
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すべて 雑誌論文 (3件) (うち国際共著 2件、 査読あり 3件、 オープンアクセス 3件、 謝辞記載あり 2件) 学会発表 (4件) (うち国際学会 2件) 図書 (1件) 備考 (1件)
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http://www.m.chiba-u.ac.jp/class/meneki/