研究課題
本研究では、Tregによる抑制的免疫応答制御およびTregの発生・分化・増殖機構の分子的基礎の解明をめざし、以下の項目について研究を進めた。(1)Treg特異的エピゲノムの成立機構と分化誘導要素の解析、(2)ヒトTreg亜群のエピゲノム解析と疾患関連遺伝子多型との相関解析、(3)Tregの発生・分化におけるゲノム高次構造と分子基盤の解明、(4)誘導型iTregの基礎的理解と誘導条件の確立、(5)Treg特異的なTCRシグナルの制御機構とTreg TCRレパトア形成の分子的基盤、(6)Tregによる抑制機構および被抑制T細胞の解析。平成28年度は、特に、Tregの発生・分化における分子基盤の解明として、Foxp3未発現のTreg前駆細胞におけるエピゲノム変化に焦点を置き、網羅的な解析を行った。この解析により、Tregには、Foxp3およびTreg特徴的遺伝子に相関するTreg特異的なスーパーエンハンサー領域が存在することを明らかにした。さらに、Treg分化では、Treg前駆細胞の段階で、Treg特異的なスーパーエンハンサー領域の活性化が惹起され、Treg分化が誘導されることを示し、この現象に必要な分子としてゲノムオーガナイザー分子であるSatb1 を同定した。また、マウスでT細胞のSatb1 を欠損すると、Treg特異的なスーパーエンハンサー領域の活性およびTreg特徴的遺伝子の発現を阻害し、胸腺でのTreg発生が顕著に減少した。このマウスでは、胸腺Tregの減少から、様々な臓器に対する自己免疫病を惹起した。これらの結果から、Satb1 によるエピゲノム成立は胸腺でのTreg発生において、現時点で最も初期のイベントであり、後にTregの転写制御を担うFoxp3 の発現に必須であることを明らかにした。
2: おおむね順調に進展している
平成28年度は、特に、胸腺におけるTregの発生・分化について研究を進めた。Treg分化と、その細胞系譜の成立には、Treg特異的転写因子であるFoxp3発現とは独立して、Treg特異的なエピゲノムパターンの誘導が重要であると考えられることから、積極的脱メチル化に関与する分子に関し、分化時期特異的な欠損マウスを作製し、Treg分化成立、安定維持、可塑性の面から解析した。また、Treg発生をクロマチン構造変化からとらえ、Treg発生・分化を支配する最初期変化を分子レベルで明らかにするため、特に、発現時期の異なる各種CreマウスとSatb1-floxマウスを掛け合わせ、分化段階ごとにSatb1を順次欠損するマウスを作製し、ゲノム高次構造変化の分化トリガーとしての役割、および必要時期を明らかにし、特異的エピゲノム成立への過程を解析した。これらの結果から、Satb1 によるエピゲノム成立は胸腺でのTreg分化において、最初期のイベントであり、後にTregの転写制御を担うFoxp3 の発現に必須であることを明らかにし、Nature Immunology誌に成果を発表した(Kitagawa et al., 2017)。また、Treg発生・分化において、Treg特異的なTCRシグナルが、TCRレパトアの自己偏倚に賦与する可能性を実験的に検証し、TregにおけるTCRシグナルの免疫学的特性を解析した。さらに、Tregの抑制機構および被抑制細胞への影響を明らかにするため、B細胞および濾胞性TH細胞を制御する濾胞性Treg (Tfr)の解析を進めた。本研究では、Tregの細胞系譜決定機構の網羅的ゲノム解析に要する試薬について遅延が生じたが、本研究計画の初年度であったことから、他の実験と調整することにより、この問題に対応した。したがって、本研究課題は、全体的に概ね順調に進展していると考える。
今後の研究推進方策として、特に、胸腺でのTreg発生・分化は、Foxp3誘導以前に決定づけられることから、Foxp3よりも上流の分化トリガーを同定する必要がある。ここでは、Treg発生の分子的理解を推し進めるため、histone修飾、オープンクロマチン状態、DNAメチル化状態、long non-coding RNA発現、転写因子結合、クロマチンリモデリング因子結合を、発生段階ごとに明らかにし、Treg発生・分化の分子基盤を確立する。さらに、これらの結果をもとに、Treg分化の支配的要素を推定し、conditional KOマウス作製や、細胞生物学的手法、生化学的手法により分化トリガーの同定をめざす。また、Treg発生に認められるゲノム上の変化は、細胞外刺激を要求し徐々に形成されると考えられることから、主刺激、副刺激、サイトカイン刺激、さらに細胞膜レセプターを介した刺激等と、Treg特異的エピゲノム変化との対応を解析し、その誘導に関与する細胞外シグナルの構成要素を明らかにし、最小限の構成要素により、機能的に安定したTregの誘導をめざす。
すべて 2017 2016
すべて 雑誌論文 (15件) (うち国際共著 5件、 査読あり 15件、 オープンアクセス 15件) 学会発表 (11件) (うち国際学会 2件)
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