研究課題
平成29年度は、Tregによる抑制的免疫応答制御およびTregの発生・分化・増殖機構の分子的基礎の解明をめざし、以下の項目について研究を進めた。(1)Tregの発生・分化におけるゲノム高次構造と分子基盤の解明、(2)Treg特異的エピゲノムの成立機構と分化誘導要素の解析、(3)ヒトTreg亜群のエピゲノム解析と疾患関連遺伝子多型との相関解析、(4)Treg特異的なTCRシグナルの制御機構とTreg TCRレパトア形成の分子的基盤、(5)誘導型iTregの基礎的理解と誘導条件の確立、(6)Tregによる抑制機構および被抑制T細胞の解析。本年度は、特に、胸腺でのTreg分化を、Foxp3誘導以前に決定づける分化トリガーの同定およびTreg発生・分化の分子的理解を推し進めるため、histone修飾、オープンクロマチン状態、転写因子結合、クロマチンリモデリング因子結合について、発生段階ごとの解析を進めた。また、Treg発生に認められるゲノム上の変化は、細胞外刺激を要求し徐々に形成されると考えられることから、主刺激、副刺激、サイトカイン刺激によるTregの変化、および感受性を検証した。さらに、TCRシグナル遺伝子の変異により、Treg減弱を伴った自己免疫性関節炎を発症するマウスで、関節炎の惹起には、ILC2とFLSによるGM-CSF産生が重要であることを明らかにした。また、Tregの抑制機能と被抑制細胞について、胚中心において濾胞性Tヘルパー細胞を介し、B細胞による抗体産生を制御する濾胞性Treg(Tfr)を解析し、その抑制機能および特異的な遺伝子発現を明らかにした。
2: おおむね順調に進展している
本年度は、特に、胸腺でのTreg発生・分化について、多角的な解析を行った。Treg分化と、その細胞系譜の成立には、Treg特異的転写因子であるFoxp3発現とは独立して、Treg特異的なエピゲノムパターンの誘導および分化トリガーが必須であることから、Treg前駆細胞をはじめ分化段階ごとの解析を進めた。また、Tregは多岐にわたる免疫応答を制御することから、ヒトおよびマウスにおけるTreg亜群の解析として、濾胞性Tヘルパー細胞を介し、抗体産生を制御するTregサブセットである濾胞性Treg(Tfr)の抑制機能とその特異的な遺伝子発現を解析し、胚中心での制御に適応したTreg分化を明らかにした。この研究成果は、PNASに発表した(Wing et al., 2017)。さらに、TCR近傍シグナル遺伝子であるZAP-70変異により、Treg減弱を伴いTh17依存性の自己免疫性関節炎を自然発症するSKGマウスについて、関節炎の惹起には、自然リンパ球であるILC2と線維芽細胞様滑膜細胞(fibroblast-like synoviocyte (FLS)によるGM-CSF産生が重要であることを明らかにした。これらの進捗状況から、本研究は、おおむね順調に進展していると考える。
今後の研究推進方策として、特に、生体内でのTregの発生・分化について、Foxp3誘導以前にTreg細胞系譜を決定づける分化誘導要素の同定を目的に、各分化過程における全ゲノムレベルでの遺伝発現プロファイル解析、エピゲノム解析、転写因子結合解析をさらに進めていく。また、Treg分化におけるTreg特異的スーパーエンハンサーとゲノム高次構造変化について、分子生物学的解析を推し進める。一方、Tregの発生段階において1細胞レベルでの分化過程と動態を明らかにするため、CyTOF質量分析装置やSingle-cell RNA-seqを用い、高次元パラメーターによる1細胞解析を進める。また、ヒトTreg亜群についても同様の1細胞解析手法を用い、健常人および免疫関連疾患におけるヒトTregの解析を進める。Treg分化において重要な誘導因子については、in vitroで、これを用い、抗原特異的T細胞から機能的に安定したiTregを誘導する因子あるいは条件としての検討を進める。また、Tregが抑制する被抑制細胞の免疫学的機能として、Tregが恒常的に高発現する可溶化型CTLA-4により制御される免疫細胞の解析を進める。特に、可溶化型CTLA-4、あるいは膜型CTLA-4をそれぞれ特異的に欠損するマウスを用い、免疫応答と免疫寛容の維持における可溶化型CTLA-4の役割とその重要性を検証する。
すべて 2018 2017
すべて 雑誌論文 (11件) (うち国際共著 6件、 査読あり 11件、 オープンアクセス 10件) 学会発表 (4件)
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