研究課題
平成30年度は、制御性T細胞(Treg)による免疫抑制機構およびTregの発生・分化・増殖機構の分子的基礎の解明を目指し、以下の項目について研究を進めた。(1)Treg特異的エピゲノムの成立機構と分化誘導要素の解析、(2)ヒトTreg亜群のエピゲノム解析と疾患関連遺伝子多型との相関解析、(3) Tregの発生・分化におけるゲノム高次構造と分子基盤の解明、(4)Treg特異的なTCRシグナルの制御機構とTreg TCRレパトア形成の分子的基盤、(5)誘導型iTregの基礎的理解と誘導条件の確立、(6)Tregによる抑制機構および被抑制T細胞の解析。本年度は、特に、胸腺でのTreg発生・分化におけるゲノム高次構造と分子基盤の理解を推し進めるため、3C法に基づいた手法により各発生段階のゲノム立体構造の変化について解析を進めた。また、ヒトTreg亜群についてエピゲノム解析を行い、各々の細胞集団の発生・機能を解析した。さらに、得られたエピゲノム情報から特定できるスーパーエンハンサー領域やTreg特異的DNA脱メチル化領域と自己免疫疾患関連遺伝子多型との相関を解析することで、自己免疫疾患の発症機構についてTregの発生・分化の面から検証を行った。他にも、Tregの抑制機構について、Tregに高発現する抑制型受容体PD-1の機能解析を行い、そのTregにおける役割をヒトおよびマウスで明らかにした。
2: おおむね順調に進展している
本年度は、胸腺でのTreg発生・分化について、多角的な解析を行った。特に、Treg発生・分化におけゲノム高次構造と分子基盤の理解を推し進めるため、各発生段階のゲノム立体構造の変化について解析を進めた。また、ヒトTreg亜群についてエピゲノム解析を行い、自己免疫疾患関連遺伝子多型との相関を解析することで、Treg発生・分化と自己免疫疾患発症の関係について検証を進めた。さらに、Tregによる免疫抑制機構に関して、Tregは多岐にわたる免疫応答を制御することから抗腫瘍免疫応答を制御する腫瘍浸潤Tregに注目し、腫瘍浸潤Tregで高発現する抑制型受容体PD-1の役割についてTreg特異的なPD-1欠損マウスを用いて検討を行ったところ、PD-1を阻害することでTregの増殖能および免疫抑制能が増強され、エフェクターT細胞による抗腫瘍免疫応答が減弱することをヒトおよびマウスで明らかにした。その他にも、胸腺におけるTreg特異的なエピゲノム形成に必須の因子であるゲノムオーガナイザーSatb1の末梢組織での役割として、Satb1が病原性Th17細胞からのGM-CSFの産生誘導およびPD-1の発現抑制を介して慢性炎症の病態悪化に寄与することを明らかにし(Yasuda et al, Nat Commun, 2019)、さらに、TCR近傍シグナル遺伝子であるZAP-70の変異によりTregの減弱を伴ったTh17依存性の自己免疫性関節炎を自然発症するSKGマウスについて、関節炎の惹起には自然リンパ球ILC2と線維芽細胞様滑膜細胞によるGM-CSF産生が重要であることを見出し、報告した(Hirota et al, Immunity, 2018)。これらの進捗状況から、本研究は、おおむね順調に進展していると考える。
今後の研究推進方策として、Tregの発生・分化におけるゲノム高次構造と分子基盤の解明を目的に、分子生物学的・免疫学的解析をさらに進めていく。特に、Tregの各発生段階においてその分化課程や遺伝子発現およびクロマチン状態の動態変化を1細胞レベルで明らかにするため、CyTOF質量分析装置やSingle-cell RNA-seq法、Single-cell ATAC-Seq法を用いることで高次元パラメーターによる1細胞解析をマウスTregおよびヒトTreg亜群で進める。また、機能的に安定な誘導型iTregの確立について、T細胞受容体刺激や共刺激分子の有無、サイトカインの作用、そして生体内に存在するその他の生理活性物質や環境ストレスの変化なども考慮に入れた培養系の探索を進め、機能的iTreg分化に最適な条件の決定を試みる。さらに、Tregが抑制する被抑制細胞の免疫学的機能として、Tregが恒常的に高発現する可溶化型CTLA-4に着目し、可溶化型CTLA-4によるマクロファージを介した免疫応答制御機構の解析を進める。具体的には、可溶化型CTLA-4、あるいは膜型CTLA-4をそれぞれ特異的に欠損するマウスを用い、免疫恒常性の維持における可溶化型CTLA-4の役割とその重要性を検証する。
すべて 2018
すべて 雑誌論文 (11件) (うち国際共著 3件、 査読あり 11件、 オープンアクセス 11件) 学会発表 (9件) (うち国際学会 3件) 産業財産権 (1件)
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