研究課題/領域番号 |
16H06295
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
坂口 志文 大阪大学, 免疫学フロンティア研究センター, 特任教授(常勤) (30280770)
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研究分担者 |
ウィング ジェイムス 大阪大学, 免疫学フロンティア研究センター, 特任准教授(常勤) (00648694)
市山 健司 大阪大学, 免疫学フロンティア研究センター, 特任助教(常勤) (60777960)
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研究期間 (年度) |
2016-04-26 – 2021-03-31
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キーワード | 免疫学 / シグナル伝達 / 発現制御 / 発生・分化 |
研究実績の概要 |
令和元年度は、Tregによる免疫抑制機構およびTregの発生・分化機構の分子的基礎の解明をめざし、以下の項目について研究を進めた。(1)Tregの発生・分化におけるゲノム高次構造と分子基盤の解明、(2)Treg特異的エピゲノムの成立機構と分化誘導要素の解析、(3)ヒトTreg亜群のエピゲノム解析と疾患関連遺伝子多型との相関解析、(4)Treg特異的なTCRシグナルの制御機構とTreg TCRレパトア形成の分子的基盤、(5)安定な誘導型Tregの基礎的理解と誘導条件の確立、(6)Tregによる抑制機構および被抑制T細胞の解析。 特に、胸腺でのTreg発生・分化におけるゲノム高次構造と分子基盤の理解を推し進めるため、転写因子Foxp3遺伝子座に存在する高度保存領域を欠損したマウスを作製し、その解析を進めた。また、機能的に安定なiTregの確立に関して、T細胞受容体刺激や共刺激分子の有無を考慮に入れた培養系の探索を進め、機能的iTreg分化に最適な条件の決定を試みた。さらに、Tregを効率よく誘導する化合物の探索も行い、naive T細胞だけでなく、メモリー型T細胞やエフェクターT細胞からも高効率でTregを誘導できる化合物を発見した。 他には、ヒトTreg亜群についてエピゲノム解析を行い、自己免疫疾患関連遺伝子多型との相関を解析することで、Treg発生・分化と自己免疫疾患発症の関係について検証を進めた。さらに、Tregの抑制機構に関して、Tregに高発現する抑制型受容体PD-1の機能解析を行い、その抗腫瘍免疫における意義をヒトおよびマウスで明らかにした。また、Treg特異的なTCRシグナルの制御機構に関して、チロシンキナーゼ阻害剤である分子標的薬イマチニブによるTregのLCKリン酸化阻害を介した選択的アポトーシス誘導を証明し、その抗腫瘍免疫における意義も明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、Tregを効率よく誘導する化合物の探索も行い、naive T細胞だけでなく、メモリー型T細胞やCD8陽性T細胞からも高効率でTregを誘導できる化合物AS2863619を発見した。AS2863619はシグナル伝達分子であるCDK8/19の機能を阻害することで抗原特異的なT細胞をTregに変換することが証明され、この化合物が強力なTreg誘導薬であることが明らかとなった。また、皮膚炎症やI型糖尿病、脳脊髄炎のモデルマウスにAS2863619を投与することで、マウス中のTregが増加し、炎症病態が抑制されることも見出し、報告した(Akamatsu et al, Sci Immunol, 2019)。 その他にも、Tregによる免疫抑制機構に関して、腫瘍浸潤Tregで高発現する抑制型受容体PD-1の役割についてTreg特異的なPD-1欠損マウスを用いて検討を行ったところ、PD-1を阻害することでTregの増殖能および免疫抑制能が増強され、エフェクターT細胞による抗腫瘍免疫応答が減弱し、結果として急速な腫瘍増大が惹起されることを明らかにし、報告した(Kamada et al, PNAS, 2019)。さらに、Treg特異的なTCRシグナルの制御機構を検証する中で、TCRの下流シグナル遺伝子であるLCKのリン酸化を阻害することが知られているチロシンキナーゼ阻害剤イマチニブの処理により、がんに浸潤したTregが選択的にアポトーシスによって除去されることで、慢性骨髄性白血病患者の抗腫瘍免疫が有意に増強されることを発見した。このことから、イマチニブによるTregの選択的除去が種々の腫瘍に対しての効果的な治療戦略になる可能性が示唆された(Tanaka et al, J Exp Med, 2020)。 これらの進捗状況から、本研究は、おおむね順調に進展していると考える。
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今後の研究の推進方策 |
まずTregの発生・分化におけるゲノム高次構造と分子基盤の解明を目的に、Treg特異的エピゲノム形成およびTreg分化誘導に重要と考えられるゲノム上の高度保存領域について、CRISPR-Cas9の手法により領域欠損を導入し、ゲノム上の特定領域を介した転写制御、クロマチン構造変化、ゲノムルーピングがTreg発生・分化に与える影響を明らかにする。次に、細胞膜受容体を介し誘導されるTCR、副刺激、サイトカイン等のシグナルによるTreg発生・分化誘導を中心にゲノム・エピゲノムレベルでの細胞系譜決定機構の解析を進める。シグナルの解析には、様々なシグナル関連遺伝子欠損マウス、シグナル強度をコントロールしうる遺伝子改変マウス、TCRトランススジェニックマウス等を用いて、細胞外シグナルとTreg特異的エピゲノムとの連関を解析し、Treg分化の分子的基盤を明らかにする。また、この解析結果をもとに、通常のマウスT細胞やメモリー型T細胞から機能的かつ安定したiTregを誘導する刺激条件も検証する。ヒトのT細胞においても各種刺激により誘導されるゲノム・エピゲノム変化の解析を行い、ヒトとマウスで共通したTreg分化機構の理解を目指す。 その他にも、ヒトTreg亜群についてCyTOF質量分析装置やSingle-cell RNA-seq法、Single-cell ATAC-Seq法を用いて高次元パラメーターによる1細胞解析を行い、健常人および免疫関連疾患におけるヒトTregの解析を進める。さらに、Tregによる抑制機構を明らかにするため、Foxp3共役因子の機能解析およびTregが高産生する可溶化型CTLA-4の機能解析をそれぞれの遺伝子改変マウスを用いて進める。また、Tregによる被抑制細胞としてT細胞のみならずマクロファージやB細胞、肥満細胞についてゲノム・エピゲノム変化を解析する。
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