研究課題/領域番号 |
16H06335
|
研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
森脇 淳 京都大学, 理学研究科, 教授 (70191062)
|
研究分担者 |
中島 啓 東京大学, カブリ数物連携宇宙研究機構, 教授 (00201666)
望月 拓郎 京都大学, 数理解析研究所, 教授 (10315971)
立川 裕二 東京大学, カブリ数物連携宇宙研究機構, 教授 (10639587)
吉川 謙一 京都大学, 理学研究科, 教授 (20242810)
入谷 寛 京都大学, 理学研究科, 教授 (20448400)
並河 良典 京都大学, 理学研究科, 教授 (80228080)
向井 茂 京都大学, 数理解析研究所, 教授 (80115641)
尾高 悠志 京都大学, 理学研究科, 准教授 (30700356)
|
研究期間 (年度) |
2016-05-31 – 2021-03-31
|
キーワード | 代数多様体 / ゲージ理論 / 数論多様体 / シンプレティック多様体 |
研究実績の概要 |
ミラー対称性等の発展からわかるように,物理的直感から従う物理学の成果を如何に数学的に厳密するかは大きな数学の課題であり,その過程から新しい数学の研究課題が数多く生まれてきた.その意味で数学,もしくは,代数幾何学は物理学の多大な影響を受けてきた.しかしながら,Braverman,Finkelbergと本科学研究費の分担者(副代表)の中島による2016年に執筆したプレプリント(A. Braverman, M. Finkelberg, and H. Nakajima, Towards a mathematical definition of Coulomb branches of 3-dimensional N = 4 gauge theories, II, ArXiv e-prints (2016), arXiv:1601.03586 [math.RT])では,ゲージ理論のクーロン枝を幾何学的表現論の手法を用いて,数学的に厳密な取扱いを可能にした.これにより,多くの数学者が研究に参入した.この論文は理論物理学にも影響を及ぼし,未だにプレプリントであるが,すでに50以上の数学・理論物理学の論文から引用されている.その意味で,当初の目標である数学(代数幾何学)からの物理学へのへ影響は達成しつつあると言える. また,数論的多様体の研究については,ラング流の height 理論を越えて新しい height 理論を構築し,大きく前進した.代表者とパリ大学の Huayi Chen氏との共同研究が著しく進展し,基礎理論がほぼ完成し,450頁に及ぶ論文(本)(H. Chen & A. Moriwaki, Arakelov geometry over adelic curves)としてまとめられている.今後,出版を計画している.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
代表者と分担者に達成度を自己評価した.上から順に 5 から 1 とすると結果として平均 4 になった.以下では代表者と分担者の自己評価と理由を述べる. (森脇 5)「Lang 流の height 関数を超えるためのアデリック曲線の基本定理等が順調に証明できた」 (中島 5)「Moore-立川の予想の解決,その際に定式化された導来佐武圏のring objectの理論は,ゲージ理論とは限らない場の量子論を数学的に取り扱うことの可能性を与えた」 (向井 4)「当初の目標に沿って研究が進んでいる」 (並河 4) 「正規なべき零軌道閉包を極大ウエイト1である錐的シンプレクティック多様体として特徴付けた研究をおこなった」 (吉川 3)「解析的捩率不変量とボルチャーズ積のホモトピーの構築という究極の目標に対しては, まだ大きな進展が得られていないので, 自己評価を3とした」 (望月 4)「体積が無限大のケーラー多様体上の小林-Hitchin対応は基礎的な重要性を持ちますが、その証明には従来の方法を適用できず、新しいアイディアが必要でした。ここを乗り越えることができたことで、研究が順調に進展しているといえます」 (入谷 4) 「トーリック軌道体に対するHodge理論的ミラー対称性が非常に一般的な設定の下で証明され,また,物理学の予言するグロモフ・ウィッテンポテンシャルの準保形性が数学的に厳密な形で証明された」 (立川 3) 「当初は理論物理と代数幾何,特にモジュライ空間の幾何との関係に関して,仕事について進展はあるものの,まとまった形で論文に出版するには至っていない」 (尾高 4) 「モジュライのコンパクト化とりわけ以前に導入したトロピカル幾何学的コンパクト化の理論が,そして予想外の方向に大変著しく進展した」
|
今後の研究の推進方策 |
全体としては順調に計画が進んでおり、数学から数理物理学に大きな影響を及ぼすに至っている。また、京都大学はカプリ数物連携宇宙研究機構を含めた形で国際的拠点の形成はできつつあると言える。その意味で今後もこの活動を続けていきたい。ここでは一班から並河、二班から森脇の計画を中心に書くことにする。 (並河)シンプレクティック代数幾何という分野を構築させ、発展させるという方向の研究は、おぼろげながらではあるが、徐々に形を持ってきた。申請時にあげた目標の一つに掲げた、シンプレクティック特異点は常に錐的であるというKaledin予想に関しては、まだ十分に発展させていないアイデアがある。これらを後2年間で発展させることが当面の目標である。シンプレクティック双対性を、 錐的シンプレクティックの分類とどう結びつけるかがその次の課題である。 (森脇)当面の最大の目標はアデリック曲線上の交点理論とリーマン・ロッホの定理(もしくは、ヒルベルト・サミュエルの定理)の確立であると思う。交点理論については、非自明な絶対値については局所的な交点理論はできているので、問題は次の2点に絞れる。まず、自明な絶対値を持つ場合の交点理論の確立である。これは自明な絶対値を持つ体上の曲線の場合は Chen 氏との共同研究で確立できた。さらに高次元化が求められる。次に局所的にある交点数をアデリック曲線上で積分することができるかという難しい問題が残っている。これらの考察を進め、リーマン・ロッホの定理を考えて行きたい。
|