研究課題
白色脂肪組織は、エネルギーを脂肪として貯めることが主たる役割であるため、熱産生に関与する遺伝子は発現していない。しかし、寒冷環境が長期に持続する と、熱産生に関わる遺伝子が誘導され、寒冷環境に個体が耐えられるよう適応する。本来、細胞には「エピゲノム」というゲノムの後天的な調節機構が備わって おり、エピゲノムのしくみにより細胞の種類ごとに働く遺伝子(活動中)と働かない遺伝子(休止中)が明確に決められている。脂肪を貯める機能を担う白色脂 肪細胞では、通常は脂肪燃焼や熱産生に関わる遺伝子は「休止中」で、働くことができない。本年度は恒温動物が長期の寒冷刺激を受けると、どのようにして寒冷環境に適応した体質への変化を促すのかを目的に研究を行った。このために、JMJD1Aの265番目のセリン残基をアラニン残基に置換した変異型 JMJD1Aマウスを作製し、寒さに対する適応を解析した。急激な寒冷刺激下では、変異体マウスは寒冷を感知できないため、通常のマウスと比べて顕著に体温が低下した。長期の寒冷刺激下では、変異体マウスは野生型マウスと比較して、脂肪燃焼、熱産生、そして白色脂肪組織のベージュ化が顕著に抑制され、寒冷への適応力が低下していることが解明された。これは寒冷センサーとなるS265がリン酸化されず、寒冷刺激をエピゲノムに伝えることができないためである。我々は、寒冷刺激によってヒストン脱メチル化酵素JMJD1Aがリン酸化され、寒冷が持続するとリン酸化によって必要な機能を獲得したJMJD1A が「休止中」だった脂肪燃焼と熱産生に関わる遺伝子群をエピゲノム変化を介して「活動中」にし、遺伝子を発現 させて、ベージュ化を誘導し、寒冷環境に慢性的に適応するしくみがあることを解明した。
2: おおむね順調に進展している
すべての必要なノックインマウスも順調に作製され、トランスクリプトーム解析、プロテオミクス解析も順調に進んでいる。
すでにJMJD1Aのリン酸化を抑制するリン酸化タンパク質脱リン酸化酵素 (PP)の触媒サブユニット、そして調節サブユニットをプロテオミクスから同定した。これらのタンパク質をコードするmRNAをRNA干渉法にてノックダウンすると、熱産生遺伝子の発現の顕著な上昇が確認された。これらのタンパク質は複合体を形成することが予測されるが、片方をノックダウンするだけで同様な発現上昇がみられ、PPの触媒と調節サブユニットを同定したことが裏付けられた。さらに、これらタンパク質の標的がJMJD1Aのリン酸化であるかリン酸化ブロットから解析する。さらに、プロテオーム解析からPP複合体の標的はJMJD1Aでよいのか、他の転写因子やエピゲノム酵素が含まれるか否かを解析する。さらにこのPP複合体をRNA干渉することで誘導される熱産生遺伝子のエピゲノムの解析をChIP PCRを用いて解析を行う。
すべて 2018 2017 2016 その他
すべて 雑誌論文 (9件) (うち査読あり 9件) 学会発表 (13件) (うち招待講演 10件) 備考 (1件)
Oncogene
巻: 36 ページ: 6262-6271
10.1038/onc.2017.222.
Cell Chemical Biology
巻: 24 ページ: 207-217
10.1016/j.chembiol.2016.12.017
Cell Rep.
巻: 18 ページ: 2228-2242
10.1016/j.celrep.2017.02.006
J Cell Biol.
巻: 216 ページ: 999-1013
10.1083/jcb.201607032
Biochem Biophys Res Commun.
巻: 488 ページ: 159-164
10.1016/j.bbrc.2017.04.159
Nature Reviews Molecular Cell Biology
巻: 17 ページ: 480-495
10.1038/nrm.2016.62
Scientific Reports
巻: 6 ページ: 28845
10.1038/srep28845
PLoS One
巻: 11 ページ: e0165766
10.1371/journal.pone.0165766
巻: 11 ページ: e0164716
10.1371/journal.pone.0164716
http://www.mm.rcast.u-tokyo.ac.jp/publications/pubs.html