研究課題
エピゲノムは塩基配列を変えず、DNAやヒストンの化学修飾により遺伝子発現を変える環境への適応機構であり、生活習慣病発症に深く関与する。しかし、多様な外的環境の変化に対応して、どのように特異的にエピゲノムが変化するのか、その一連のメカニズム解明は不十分である。環境変化に対するエピゲノム修飾酵素の翻訳後修飾とこれによって規定されるタンパク質複合体形成がクロマチン構造変化の初期応答 (1st step) として鍵となることを解明した。①本研究において、質量分析を用いた翻訳後修飾とタンパク質複合体解析、さらにはヒストンメチル化解析などから、環境刺激が慢性化するとこのために、組織は刺激による初期応答が、エピゲノム変化をともなう持続応答 (2nd step) へと移行していくことを解明した。この知見にもとづき、H29年度は、1st stepの刺激によるリン酸化を持続させることで、2nd stepのエピゲノム書き換えをより促進させられるか否かの解析を行った。このために、JMJD1Aの265番目のセリンのリン酸化を脱リン酸化するタンパク質複合体をまず同定することを行った。質量分析を用いた探索の結果。リン酸化JMJD1Aの脱リン酸化タンパク質複合体(触媒サブユニット並びに調節サブユニット)の特定に成功した。H29年度においては、この部位のモノクローナルリン酸化抗体を作製し、普遍的な検出系を作ることも念頭に入れたが、ひとまず、同タンパク質複合体を特定することができ、必ずしもモノクローナル抗体の作製は不要となった。現在、我々はJMJD1Aのセリン265のリン酸化を検出するポリクローナル抗体は作製済みで保持している。
2: おおむね順調に進展している
リン酸化モノクローナル抗体については、再度モノクローナル抗体研究所に依頼したが結局、必要を満たすレベルの抗体を得ることはできなかった。これまでのポリクローナル抗体を使うとともに、質量分析を用いて、JMJD1Aタンパク質のリン酸化レベルを解析するSILACと呼ばれる定量的解析技術、ならびにリン酸化ペプチドを精製する方法を立ち上げた。
リン酸化モノクローナル抗体を使う代わりにSILAC法を確立する。この方法は12Cまたは、13C L-リシンの様な軽い(light)または重い(heavy)必須アミノ酸を含む培地で哺乳類細胞を培養する。軽いアミノ酸を含む培地の細胞と、重いアミノ酸を含む培地の細胞を、それぞれコントロール及び実験サンプルとして用いる。これらアミノ酸は、細胞培養時に天然の細胞内タンパク質合成経路により、タンパク質中に導入(ラベル)されます。ラベルされた細胞サンプルをNano LC/MS/MSにより分析する。リシンは化学的に同一であるため、逆相クロマトグラフィーにおいて同時に溶出され、同時にMS分析する。得られたMSスペクトルにおける、軽いおよび重いタンパク質に由来するペプチドのピーク強度の比率から、実験サンプル中のタンパク質の発現量変化を評価する。この方法を用いて、軽いアミノ酸と重いアミノ酸でラベル後、重いアミノ酸ラベルの細胞はリン酸化刺激を行い、JMJD1Aを免疫沈降後、リン酸化ペプチドの比較定量を行う。別の方法として、リン酸化ペプチドを吸着させるチタニアビーズカラムを用いて精製ののち質量分析を行い、リン酸化ペプチドの定量を試みる。
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すべて 雑誌論文 (6件) (うち査読あり 6件) 学会発表 (8件) (うち国際学会 4件、 招待講演 8件) 備考 (1件)
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