本研究の目的は,オートプシー・イメージング(死亡時画像診断;Ai)を対象とした計算機支援診断(Computer Aided Diagnosis; CAD)技術の開発である.CADにおいては臓器や病変の抽出処理が重要であり,そのためには臓器形状の統計モデルが欠かせない.従来の生体を対象としたモデルは死後変化などの時間的変化を表現することが難しく,新たなモデル構築法が必要である.本年度は,解剖構造の時間変化と個体間変動を同時に表現可能な時空間統計モデルや,モダリティ変換のためのモデル,新たな形状表現手法の研究を行った.本年度の成果は以下の通りである. 1) 画像データベース:信頼性の高い統計モデルを構築するために,大量のデータセットが必要である.本年度は,複数の異なる線量で撮影された130例の死亡時3次元CT画像を新たにデータベースに追加した.また,時系列の小児腹部の3次元MR画像の収集も行った.一部の症例に対して,臓器の正解ラベルを作成した. 2) 時空間統計モデル:昨年に引き続き,米国との共同研究のもとで小児の肝臓の時空間統計モデルをさらに発展させた.また,昨年度の成果であるランドマークの時空間統計モデルをヒト胚子の脳表面の時空間統計モデル構築に応用した. 3) マルチモダリティ統計モデル:死体のCT画像から光学画像を推定する辞書ベースのモダリティ変換モデルを提案し,国際会議で発表した. 4) 形状表現手法:複数の臓器形状を同時に表現する場合,臓器間の関係に特別な制約が存在する場合があり,その一つの例が脳表面と脳室のような入れ子形状である.本年度は,ヒト胚子の脳と脳室を同時に表現するモデルを提案し,国際会議で発表した.また,その成果をさらに発展させて,任意の形状数に対応可能な新たな入れ子形状の表現手法を提案し,ヒト胚子の脳・脳室・脈絡叢の3器官の統計モデル構築に応用した.
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