研究課題
生後間もない脳が経験に依存して機能的な神経回路の形成する臨界期がある。臨界期を制御する数少ない因子の1つとして、ホメオ蛋白質Otx2が知られている。Otx2は視覚野のParvalbumin発現細胞(PV細胞)に運ばれ、PV細胞を取り囲む細胞外基質(PNN)に結合して細胞内に取込まれた後、PV細胞の成熟を促すことで臨界期を制御する。一連の研究から、Otx2と細胞外基質の相互作用により生涯にわたり臨界期が制御されることが明らかになった。一方で、Otx2と細胞外基質がPV細胞の機能成熟を支える分子メカニズムがまだわかっていない。本年度は、アクチン重合の促進に不可欠なCoactosinに焦点を当て、Otx2の下流因子であるCoactosinのPV細胞における役割の解析を行った。まず、電気生理学的な解析から、研究室で作成したCoactosin nullやPV細胞特異的にKO されるCoactosin flox / PV-Creマウスでは、臨界期が活性化されないことがわかってきている。また、Coactosin蛋白質は細胞外基質(PNN)に囲まれた細胞体近傍に分布するのが観察され、CoactosinがF-アクチンとともに細胞外基質の裏打ち構造として機能することが推測される。Coactosin null マウスではVGlut2染色の減少とともに、細胞外基質(PNN)の構築が未成熟であることが分かってきている。総合して考えると、CoactosinはPV細胞に入力するシナプスの形成を促進し、PV細胞の成熟に関与する可能性がある。すなわち、Coactosinがアクチン骨格の再編を促し、膜分子やシナプスの形成に関与すると考えられる。
2: おおむね順調に進展している
本研究では、Coactosinを手掛かりに、Otx2/PNN がPV細胞を成熟させ、臨界期を制御するメカニズムを明らかにすることを目的にする。特に本年度は、アクチン細胞骨格の再編が、①臨界期に関与するのか、②シナプス形成とPV細胞の成熟に関与するのか、③細胞外基質構造の発達を促進するのか、について解析する。次の主な研究成果で述べるように各設定目的をおおむね達成した。これまでに、視覚誘発電位記録法(VEPs) を用いてCoactosin nullマウスやPV細胞特異的なCoactosin KOマウスでは臨界期が誘導されないことがわかっている①。また、視覚野においては、細胞外基質(PNN)の構築が未成熟であり②、CoactosinがF-アクチンとともに細胞外基質の裏打ち構造として機能するという作業仮説通りの結果となった。さらに、シナプスや膜分子の局在の異常などを解析し、PV細胞の機能成熟を支える分子メカニズムの詳細を検討している③。さらに、Coactosinや細胞骨格関連分子に対する翻訳制御メカニズムを明らかにするために、すでにRIP-seq (RNA 免疫沈降法次世代シークエンス解析)の条件検討を行っている。
今年度の研究成果をもとに、引き続きPV細胞特異的なCoactosin KOマウスにおけるシナプス前終末、シナプス後膜のマーカー分子を検出し、PV細胞へ投射するシナプスの形成する様子を解析する。また、Coactosinを介したスパインの形態変化の可能性があることから、興奮性神経細胞に特異的なKO マウスの臨界期異常の有無を確認し、Coactosin KO マウスにおいてゴルジ染色を行い、スパインの形態変化を解析する。臨界期における翻訳制御が回路網全体への直接関与するかを検討する。さらに、Coactosinのほかに翻訳制御されうる細胞骨格関連分子も網羅的に調べる。
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Scientific Reports
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