本研究は近世から近代における製材・木材の技術的展開に着目した日本建築史研究である。室町時代の大鋸伝来と木挽職人の誕生という技術革新については、すでに中世建築生産史研究で俎上にあがっているテーマである。しかしながら、日本建築史における製材革新の第二波である木挽から機械製材への移行やそれに伴う建築の変化については既往研究が乏しい。本研究は、近世から近代における製材・木材の生産技術史的変容と実際の建造物調査を同一視野のもとで検討し、近代建築における材料調達のあり方を考察するものである。 本年度も昨年度に引き続き、東北地方に現存する木造の歴史的建造物の現地実測調査に取り組み、その記録化のなかで製材技術に関する情報を蓄積していった。宮城県登米、岩手県水沢、青森県弘前等の旧城下町で近代木造建築物のケーススタディを行い、とりわけ大規模な公共建築物における明治中期での製材技術の転換等に着目した。その一方、公共建築と異なる民家建築における現地調査では、大正・昭和期まで機械製材の普及が及ばないなど、建築類型と製材技術との対応についても検討している。 また、本年度の研究成果公表としては「木材」という視点から日本建築史を見直す論考「近世藩領の普請備林」を発表した(『建築の歴史・様式・社会』中央公論美術出版、2018)。石造建築と異なり、日本の木造建築は度重なる修繕や増改築、火災による類焼再建などで、常に木材調達が必要なことがその特徴といえる。近世林業史料から建築工事と森林・木材の関わりを抽出し、木材ストックという行為が建築生産において重要な視角であることを述べたものである。こうした近世的な木材調達のあり方が、近代において消滅していく過程についても今後、研究成果公表を目指していく。
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