研究課題/領域番号 |
16J05812
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
椎橋 元 慶應義塾大学, 医学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2016-04-22 – 2018-03-31
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キーワード | 筋萎縮性側索硬化症 / モデルマウス / FUS / ALS / 神経変性 |
研究実績の概要 |
筋萎縮性側索硬化症の原因遺伝子の一つであるFUSのトランスジェニックマウスを作成し、筋萎縮性側索硬化症の病態解明を行った。筋萎縮性側索硬化症に関連するFUSの遺伝子変異はFUSの核内移行シグナルの部位に集積している事から、FUSの核内移行が障害される事が神経変性に関与していると考えられている。しかしながら、FUSが神経障害を引き起こすメカニズムは不明であり、特にFUSの核内移行が障害される事で、核内のFUSの低下により神経変性が引き起こされるのか、あるいは細胞質にFUSが蓄積する事により神経変性が引き起こされるのかは未解決の問題である。 そこで、核内移行シグナルを欠損したFUSのトランスジェニックマウス(FUS tgマウス)を作成した。本FUS tgマウスは、12週齢より下肢病的反射の出現を認め、野生型マウスと比較して20週齢より運動機能の低下を示し、また生存率の低下を示した。病理学的解析では、FUS tgマウスの運動野にアストロサイトーシス、マイクログリオーシスを認め、更に1年齢のFUS tgマウスにおいて運動野の神経細胞の減少を認めた。またFUS tgマウスの運動神経細胞質に外因性FUSの凝集体を認め、本凝集体はユビキチン、p62及びRNA顆粒マーカーのG3BP陽性であった。従って、筋萎縮性側索硬化症の運動症状、病理学的所見の再現に成功したと考えられた。一方で内因性FUSの発現量、核内分布、スプライシング機能は変化しておらず、細胞質へのFUSの異常蓄積のみで神経障害が引き起こされる事が証明できたと考えられた。更に、FUS tgマウスのトランスクリプトームを網羅的に解析し、細胞内輸送に関連する蛋白質や神経栄養因子の発現低下を認め、これらは今後、疾患マーカーや治療ターゲットとして活用できる可能性が考慮された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究において作成したFUSトランスジェニックマウスは、筋萎縮性側索硬化症と同様の年齢依存性の筋力低下を認め、患者病理に認める病理所見(運動野のグリオーシス、神経細胞死、ユビキチン陽性の細胞質封入体等)の再現に成功し、筋萎縮性側索硬化症のモデルマウスの樹立に成功したと考えられた。また、FUSが神経障害を引き起こすメカニズムは不明であったが、本FUSトランスジェニックマウスの解析により、細胞質に蓄積したFUSが神経障害を引き起こすという事が証明できた。 従って、当初の計画通りに筋萎縮性側索硬化症のモデルマウスの樹立に成功し、本マウスの解析により筋萎縮性側索硬化症の病態の一部を明らかにすることが出来たと考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
上記の通り、これまでの研究により細胞質に蓄積したFUSが神経障害を引き起こすと考えられた。今後は、この細胞質に蓄積したFUSがどのように神経障害を引き起こすかのメカニズムの解析を行っていく。 FUSは細胞内においてmRNAの輸送に関与しているとされている。従って、細胞質に蓄積したFUSがmRNAの輸送を障害しているという仮説が考慮される。本仮説を検証するために、mRNAのpoly-A tailに対するin situ hybridizationを行い、mRNAの分布の変化を解析する。また、mRNAの輸送先であるシナプスの形態学的、機能学的解析を行い、シナプスの評価を行う事を検討している。 更に、FUSは筋萎縮性側索硬化症に加え、前頭側頭型認知症にも関与している事から、本FUSトランスジェニックマウスの認知機能の評価を行う事も検討している。
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備考 |
KOMPAS(Keio Hospital Information & Patient Assistance Service)は患者、家族に対して医療情報を提供するウェブコンテンツ。その中の、慶應初サイエンスの項目に本研究成果が掲載された。
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