研究課題/領域番号 |
16J05817
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研究機関 | 成城大学 |
研究代表者 |
長尾 天 成城大学, 文学研究科, 特別研究員(PD)
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研究期間 (年度) |
2016-04-22 – 2019-03-31
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キーワード | デ・キリコ / ニーチェ / ヴァイニンガー / 生の無意味 / 子どもの脳 |
研究実績の概要 |
当該年度の主な実績としては、①論文「ジョルジョ・デ・キリコとオットー・ヴァニンガー ―― 生の無意味をめぐって」(『エクフラシス』第7号、早稲田大学ヨーロッパ中世・ルネサンス研究所、2017年4月、118-132頁)及び、②学会発表「神の死の肖像 ―― ジョルジョ・デ・キリコ《子どもの脳》について」(日仏美術学会第142回例会、2017年3月18日、於日仏会館)を挙げることができる。 ①では、デ・キリコの形而上絵画理論の形成に影響を与えたとして、しばしば言及されるオット・ヴァイニンガーの思想との関係について論じた。従来、ヴァイニンガーの思想の影響は曖昧に指摘されるのみだったが、本論ではデ・キリコの言う「生の無意味」という概念を軸に、ニーチェとヴァイニンガーの思想を比較し、ヴァイニンガーの思想にはニーチェへの批判が含まれているからこそ、デ・キリコはヴァイニンガーを結局のところ重視しなくなっていったことを証明した。 ②ではデ・キリコの代表作であり、シュルレアリスムとの関係を考える上でも重要な作品である《子どもの脳》(1914年)について論じた。この作品に描かれた中年の男性像は、デ・キリコの父親、ナポレオン三世、ディオニュソスなど様々なイメージが読み込まれてきた。本発表ではこの男性像を、様々な証拠からニーチェのイメージとして位置づけることで、《子どもの脳》が孕む多義性の理由や意義それ自体について考察を行うことを試みた。本発表の内容は、すみやかに論文として発表されるを予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当該年度は、デ・キリコの形而上絵画理論を焦点として計画を作成したが、論文一本、発表一回を行ったことで、妻の妊娠出産など私生活上の変化もあったが、おおむね順調に成果を出せていると言える。特にデ・キリコとシュルレアリスムの関係を考える上で重要な作品である《子どもの脳》について、新しい視点を提出することができたことで、今後の研究の展開に大きな布石を打つことができた。デ・キリコの形而上絵画理論は、主にニーチェ、ショーペンハウアーに拠っており、一方、シュルレアリスムは直接的には両者の影響を受けていない。だが、シュルレアリスムのリーダー、アンドレ・ブルトンが長く手元に置いていた《子どもの脳》がニーチェのイメージであるとすれば、期せずしてシュルレアリスムの文脈にニーチェ大きな影を落としていることになる。実際、ブルトンは後年『黒いユーモア選集』において、狂気に陥ったニーチェの書簡を取り挙げているが、こうした行為も、そもそもデ・キリコとニーチェの思想的関係性の反響と捉えていくことができるだろう。また研究計画にはショーペンハウアー、ニーチェ、フロイトという思想的系譜の検証が含まれているが、《子どもの脳》についての分析は、実作品によってこの系譜の問題にアプローチすることができる可能性を示していると言える
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今後の研究の推進方策 |
今後も研究計画に従って研究を進めていきたい。夏季には海外で調査を行う予定だが、文献の収集精査を可能な限り国内で行い、綿密なスケジュールを組むことで、海外調査を充実した内容なものとする。また第二年度は、主にシュルレアリスムのデ・キリコ受容を焦点とする予定だが、基礎資料については既に手元にほぼ集まっているため、これらを精査することで、デ・キリコとシュルレアリスムの関係を再考していく。またこれと並行して、前年度の成果は、可能な限りすみやかに論文として発表する。
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