研究課題
研究課題として、①外来DNA切断時のCas9のPAM配列認識機構の解明、②外来DNAの認識機構に関わる超分子複合体の構造の解明、の2つに取り組んできた。②に関しては複合体を形成しうる各コンポーネントのタンパク質の精製は完了しているものの、複合体の結晶化には難航しており良質な結晶は得られていない。①に関して、Cas9のオルソログの結晶化に難航したため、2015年10月に報告された新規のRNA依存性DNAエンドヌクレアーゼであるCpf1の結晶構造解析に着手した。Cpf1はCas9と同様にclass 2のCRISPRシステムで働くエフェクタータンパク質である。Cpf1はCas9と同様にガイドRNAと複合体を形成し、ガイドRNAと相補な標的2本鎖DNAを切断する。標的DNAの切断にはPAMと呼ばれる標的配列近傍の特定の配列を認識する必要がある点はCpf1とCas9で共通だが、Cpf1はCas9では見られないTTTNというPAMを認識し、また2本鎖DNAの切断箇所は突出末端となる。このような特徴からCpf1は新規のゲノム編集ツールとして注目されている。私は、培養細胞内での標的DNA切断活性が報告されているAcidaminococcus sp.由来Cpf1 (AsCpf1)に着目し、AsCpf1-ガイドRNA-標的DNA複合体の結晶構造を高分解能で決定することに成功した。Cpf1とCas9はドメイン構成は類似しているものの、全体構造は大きく異なっていた。ヌクレアーゼドメインの位置やPAM認識に関わるドメインの構造から、Cpf1がCas9とは異なる特徴を示す理由を説明することに成功した。これらの結果は2016年5月にCell誌に掲載された。
2: おおむね順調に進展している
当初はCas9オルソログの結晶構造の決定を目的としていたが、難航したためにCpf1の結晶構造解析を行った。Cas9とCpf1はともにclass2のCRISPRシステムに分類され、基本的な機能は似ている。Cpf1の結晶構造から特徴的なPAM認識機構を明らかにすることができたため、CRISPRシステムで働くエフェクタータンパク質のPAM認識機構の多様性を解明するという当初の目的はほぼ達成されたと考えられる。
近年、Cpf1のPAM認識に関する研究が多く報告されている。それによると、Cpf1はTTTVという配列を強く認識するものの、Cを含むCTTV, TCTV, TTCVといったPAMも認識可能であることが明らかになった。しかし、構造情報が限られているため、Cpf1のCを含むPAMの認識機構は不明であった。そこで、私はAsCpf1と同様に培養細胞で活性を示し、かつAsCpf1よりもCを含むPAMを認識しやすいことが知られているLachnospiraceae bacterium由来Cpf1 (LbCpf1)に着目した。まず、精製タンパク質と標的配列を含むプラスミドを用いた標的配列のin vitro切断実験を行い、in vivoでの結果と同様にLbCpf1はCを含むPAMを認識できることが確かめられた。今後はCを含むPAMの認識機構を構造から明らかにするため、LbCpf1-ガイドRNA-標的DNA複合体の結晶構造解析に着手する。
すべて 2016
すべて 雑誌論文 (1件) (うち国際共著 1件、 査読あり 1件) 学会発表 (4件) (うち国際学会 2件)
Cell
巻: 165 ページ: 949 962
10.1016/j.cell.2016.04.003