研究最終年度の2019(令和元)年度は,本研究課題である「質的調査手法に依拠した映像利用に基づく総合型コミュニケーションデザイン研究」を実装すべく,前年度に引き続き,映像メディアを活用した「1.リサーチメソッド」と「2.コンテンツデザイン」の統合を軸に作業を実施した。ここでは過去3年にわたって調査フィールドとしてきた岡山県の犬島を研究対象として改めて設定し,「1」の作業として,失われつつある島の文化や歴史の映像・音声記録と,記録済みインタビュー映像の文字起こしとタグ付け作業ならびに字幕付け作業を展開した。そこで得られた成果を犬島のオーラルヒストリーと位置付け,実証研究のための材料として保存した。「2」の作業としては,「1」の成果を活用した,島の価値を島の内外で共有(伝達)する複数の映像コンテンツ制作を行った。 最終的には,研究成果の発表・公開の手段として3つの成果物に到達した。まず第一に研究展「自律システムとしての島を視覚的に情報化する」(2019年10月26日・土~11月4日・月,岡山市立犬島自然の家・旧中学校内「研修室」)の開催である。ここでは「いぬじまカタログ」(島民の生活を収めた短編エスノグラフィ映画集),「犬島くらしの植物園・クロニクル」(造成から植栽作業にいたる変化を体験できるCGと実写映像によるコンテンツ),「犬島topigraphy」(SNS上で共有される犬島の印象を可視化)等のコンテンツを一般公開した。瀬戸内国際芸術祭会期に合わせたこともあり,600名を超える来場者数があり,多くのフィードバックを得ることが出来た。第二には,4年間の研究期間の軌跡をまとめた報告書『犬島リサーチデザインプロジェクト2016-2019』の発行である。そして第三には,2019年度の取り組みを日本デザイン学会第67回春季大会のために梗概としてまとめ上げた。
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