研究課題/領域番号 |
16K00718
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研究機関 | 文教大学 |
研究代表者 |
川合 康央 文教大学, 情報学部, 准教授 (80348200)
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研究分担者 |
池辺 正典 文教大学, 情報学部, 准教授 (10453440)
佐野 昌己 文教大学, 情報学部, 准教授 (70350999)
松本 修一 文教大学, 情報学部, 准教授 (60389210)
門屋 博 相模女子大学, 学芸学部, 准教授 (80510635)
角田 千枝 相模女子大学, 学芸学部, 講師 (50712337)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 景観シミュレーション / 歴史的文化景観 / 宿場町 / ストリートスケープ / 本陣 / 旅籠 / 注視要素 / 東海道 |
研究実績の概要 |
本研究は,地域の歴史的文化をわかりやすく伝えることを行うことを目的とした,歴史的文化景観シミュレーションシステムを開発するものである.平成28年度は,以下の項目について実施した. 1:研究対象地区として,旧東海道の宿場町である藤沢宿を選定した.本地区は,宿駅伝馬制度が制定された際に最初の宿場町のひとつであり,藤沢市によって「旧東海道藤沢宿街なみ継承地区」として指定された地域である.浮世絵や文献資料をもとに,江戸時代末期を対象とした街路景観の再現を行った. 2:各資料から寺社や本陣,旅籠等の建築物,高札場や鳥居,道標等の都市施設など,必要な空間構成要素を分類し,モデル作成用の平面図と立面図を準備した.これらをもとに個々の空間構成要素の3次元形状モデルデータを3DCG制作環境によって作成した.また,画像処理を行い,テクスチャマップとともに,法線マップ,ラフネスマップを画像ファイルとして用意した.これらのデータは都市単位で扱うと容量が非常に大きいものとなるため,要素ごとにゲームエンジン(Unreal Engine)へと取り込み統合することとした. 3:建築物などの静的な空間構成要素とともに,歩行者や鳥獣などの動的な空間構成要素を追加した.これまでの研究結果から,都市景観上で動的要素は注視を促す要素として重要なものであることが明らかとなっており,これは本システムにおいても有効であると考えた.動的要素は,モデルにループ型アニメーションを持たせたものであり,これに簡易なAIを付すことによって,指定された範囲内を自律的に行動するNPCとして用意した. 4:本研究によって開発されたシステムは,藤沢市郷土歴史課の協力を経て,藤沢市ふじさわ宿交流館において常設展示されることとなった.研究で得られた成果を社会に向けて広く公開することが可能となり,また研究に対する社会からのフィードバックの機会を得た.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
平成28年度の計画は,「1:地域の歴史的文化資料の収集」と「2:プロトタイプシステムの作成」,「3:地域イベントや展示会における成果発表とフィードバック」であった.各項目の進捗状況については以下のとおりである. 1:地域の歴史的文化資料の調査は,市からの積極的な情報提供と支援を受けるとともに,地域住民の協力を得ることによって,円滑に遂行することが可能であった.また,時代考証については,各種文献とともに研究分担者によるアーカイブから利用できた資料も多くあった.これらの資料を整理し,3次元形状モデル作成のための図面作成を行った. 2:プロトタイプシステムの作成は,これまで開発及び評価してきた都市空間シミュレーションシステムの知見を活かすことによって,動的な要素の先行実装など,当初計画以上の規模で開発することが可能となった.また,開発環境をゲームエンジンとすることにより,動作を軽量化するとともに,レンダリングアルゴリズムに工夫を持たせることによってリアルタイムレンダリングの品質を向上させて実装することができた. 3:市のイベントなどで実際に市民向けの展示を行うとともに,藤沢市ふじさわ宿交流館において常設展示することが市の協力を経て実現した.常設展示用にシステムの安定化をはかり,運用保守対応を行うこととした.また,実際のユーザからのフィードバックを受け,コンテンツの改良を行い,システムの定期的なバージョンアップを行うこととした.
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今後の研究の推進方策 |
プロトタイプシステムの評価をもとに,システムの改良を行うこととする.先行的に実装した自律的に行動するキャラクターを用いて,ユーザとのインタラクションを持たせたイベントを発生させることを計画している.また,背景となる環境音を作成し,聴覚情報を用いたサウンドスケープの実装を再現する.常設展示を考えた入出力インタフェースについても,より分かりやすいデバイスや没入感のある仮想現実環境を準備するとともに,現代の都市との比較などを考慮した複合現実環境についても検討する.さらに,ユーザの心理実験や行動実験を通じてシステムの評価を行うとともに,汎用的なシステムの基盤構築のためにモデルのモジュール化をはかっていく.
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次年度使用額が生じた理由 |
ゲームエンジンからビルドした実行ファイルは,通常のPC性能で動作可能なものであるが,その開発環境では,詳細な高ポリゴンモデルを都市規模で準備する必要があり,既存設備では今後作業が困難となることが予想される.また,大規模モデリングに伴い,開発補助のための人件費の準備をする必要がある.そこで,プロトタイプシステム開発においては,既存機器設備やFOSSを活用することによって,システム開発のための予算を確保することとした.
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次年度使用額の使用計画 |
モデリング制作補助,システム開発補助に関する機器備品及び人件費として使用するとともに,その研究成果を論文及び学会発表で行う計画である.
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