研究課題/領域番号 |
16K00730
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研究機関 | 神戸芸術工科大学 |
研究代表者 |
荒木 優子 神戸芸術工科大学, 芸術工学部, 教授 (30388863)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 日本の伝統パッケージ / コミュニケーションデザイン |
研究実績の概要 |
調査・分析の結果、「用の包み」としての藁苞や竹籠は消滅したが、注連縄や工芸竹籠の職人が「用の包み」の継承活動をおこなっていることがわかった。工場生産に適した形態をとる酒や味噌の瓶やパックでも、醸造用の桶はあえて昔ながらの杉桶にこだわる企業があり、地方の老舗醸造元から木桶への回帰がある。郷土の特産品・伝統食の包み(富山の鱒寿司、瀬戸内の濱焼桜鯛など)は、パッケージの意匠性自体が特産品を示し土産物や贈答として残り、途絶えた商品や製法を復活させる動きもある。酒の菰かぶりは、ハレの日の用途や神社への奉納として残るが、内樽の多くはプラスチック製である。また菰の生産を行う工場は限られる。茶道の文化から派生した由緒・伝統の包みは、全国に点在するが、圧倒的に京都に多い。一部の老舗は伝統の継承者であるとともに革新的な新たな取り組みをおこなっている。 これらの調査・分析を踏まえ、二方向から研究対象の絞り込みをおこなった。一つは包みの「素材」を切り口にして、山形県最上地方の稲藁と、奈良県吉野地方の杉の樽材を取り上げた。もう一方は、神道や武家の折形にみる文化的背景から発展した和紙を使用した包みに着目した。明治時代の近代的洋紙技術の導入によって、それまで全国各地でおこなわれていた紙漉きが廃業に追い込まれたが、現代に受け継がれる伝統包みには、未だに和紙が使用されている。 コミュニケーションデザインの観点から、日本の「包みの文化」起源/卵の藁苞/折形/菰樽/暖簾(ブランド)/風呂敷の6つのテーマを設定し、本学の学生と各方面の専門家との協働でソーシャルデザイン・プログラムを立ち上げた。 伝統パッケージの持続性の知恵や精神性から学んだことを、いかに現代のグローバル社会に対して示唆を与えうるような社会的プロジェクトとして実現していくか、また「包みの文化」の保持の方法について参加者との議論をおこなっている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
現在、各方面の若手専門家とともに研究を進めている。 日本の伝統パッケージや贈答の習慣において、日本人の精神文化に深く根ざした神道が反映されてきた。日本人の信仰における根本思想である「産霊(むすひ)」や、贈答文化の起源である神への捧げものとして「祭祀にまつわる奉納」と「贈る調え」について、現代の生活者の視点から研究を行う専門家に協力を仰ぎ、現代の贈答との関係性や包みの変容について知見を深めている。 長年、藁細工を通して郷土の文化と手業を次世代に引き継ぐ活動をおこなってきた、山形県最上地方の民族文化伝承者の長老を師匠とする専門家に協力いただき、藁苞のワークショックをとおして研究を展開している。 実践を通して「守り伝える伝承ではなく、新たな伝統を作る」ことを目指す、折形(おりかた)の研究者でデザイナーの協力者とともに、和の作法や時代を経て変容してきた折形について学ぶワークショップをおこなった。 また、和紙問屋業を営む専門家の協力を得て、手漉き和紙の産地である阿波、因州、越前の紙漉き職人と家内工業について聞き取りをおこない、和紙を用いた新たな提案を進めている。
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今後の研究の推進方策 |
これまでにコミュニケーションデザインの観点から、伝統と未来を思考する中で、従来のスタティックなメディアと、テクノロジーを取り入れたデジタルメディアの両方向から研究を進めてきた。そこから展示やワークショップなどで使用することを前提とした体験型コンテンツの可能性を探り、コンテンツデザインの専門家に協力を得て、日本の伝統パッケージをテーマにタッチスクリーン式の体験型コンテンツを試験的に開発した。 今後は、本研究の目的である人々の暮らしに新しい豊かさや充足をもたらす、成熟社会におけるデザインの役割を模索し、上記のソーシャルデザイン・プログラムを実現し、プロジェクトの成果を本やホームページで、コミュニケーションデザインとして社会に発信をおこなう。また、研究協力者とともに、日本の伝統パッケージを核に「包みの文化」の保持の活動をおこなうネットワークを構築する。
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次年度使用額が生じた理由 |
29年度に予定していた調査の時期を、今年度に変更したため。
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