研究課題
2017年度に実施したネパール・スンコシ流域に分布する地すべり地形判読結果のうち,支流のボテコシ川,インドラワティ川流域についてデジタル入力を行い,GISを用いた地形・地質解析を進めた.その結果,地すべり地形は斑状・眼球片麻岩類地域,千枚岩地域そして,粘板岩地域において箇所数や面積において高い発生率を示すことが明らかとなった.さらに,それらは北西方向に単斜構造を示す流れ盤斜面に於いて大規模化し,ヒマラヤ最大級の地すべりが発生していることも明らかとなった.そのため,現地に於いて発生年代解明のための年代測定試料採取を実施した.地すべり地形の地形・地質解析結果については,IAEGアジア地域大会で発表し,ネパール地質学会誌特別号への掲載も決まった.2017年度に実施したネパール・ボテコシ流域の高位平坦面上転石の宇宙線生成核種蓄積年代の測定結果は,予想したものに較べかなり新しいもので,年間90mm程度の浸食速度を示すことが明らかとなった.その真偽については新たな測定事例を増やすことを検討している.逆に地震による崩落物質が周辺斜面からもたらされてものではないかとの作業仮設を検討するに至っている.マハバーラト山脈前縁部に残された高位平坦面の現地調査を実施したが,同面を覆う岩屑堆積物は石灰岩質で年代測定には適していないことが明らかとなった.一方で,石灰岩地域における高位平坦面が同岩の透水性・耐浸食性に由来する組織地形であることも明らかにした.マルシャンディ川流域における土石流段丘が氷河地域由来のものであることを明らかにし,その発生年代が4千年前であることも宇宙線生成核種蓄積年代から明らかに出来た.このため,同川流域の浸食速度が年間20mm弱であることも明らかとなった.
2: おおむね順調に進展している
ボテコシ流域においては予想した年代値よりも新しい年代値が得られ,それをもとに年間90mm程度の浸食速度が算出された.その真偽について躊躇していることから,新たな作業仮設をたてなければならない状況にある.一方で,高位平坦面状縁辺に残された巨礫の年代値が800-1800年前を示すことから,地震にともなう転石の可能性が考慮された.また,ヒマラヤ最大規模の地すべり地形が発見され,その年代計測試料も採取できた.それらは現在前処理段階にあり夏前には測定結果が示されよう.それらの年代値と前述の転石の年代値との比較をすすめることで,巨大地すべり・カタストロフィックな山体崩壊が地震にともなって発生しているのではないかという新たな研究の展開が予想されている.マルシャンディ川流域における氷河性堆積物の土石流段丘年代が4千年前頃に集中し,それらが既知の放射性炭素年代と高い調和性を示したことで,宇宙線生成核種蓄積年代の信頼性が高まった.それらから得られる浸食速度は20mm/yrでヒマラヤの隆起速度から予想された浸食速度と調和的であることが明らかになった.マルシャンディ川以外の大ヒマラヤ南面山麓部の小盆地や河谷沿いに同様な土石流段丘や,その上位にも赤色化をうけた高位土石流段丘が分布していることから,大ヒマラヤにおける浸食様式が緩やかで漸移的なものではなく,気候変化や地震などをトリガーとしたカタストロフィックな現象であることが明らかになりつつある.2017年度は,高位段丘についてもOSL年代試料を採取し研究協力者に測定を依頼したことから,数万年の時間スケールでの地形発達が明らかになることが期待される.以上から2017年度は,期待した結果と異なる面もあるが,新たな展開が予想されてきたことから全体としておおむね進展していると判断する.
2018年度は,2015年ネパール・ゴルカ地震の震源地域における地すべり地形分布図のデジタル化を進め,GISをベースに,地形データと地質データの重ね合わせから2015年の地震時の地すべり現象と過去の地すべりとの地形・地質的特徴の差異と類似性を明らかにする.インドラワティ川流域の巨大地すべり地やトリスリ川,ブディガンダキ川およびマルシャンディ川流域の土石流段丘及び高位土石流段丘について,2017年度に採取した宇宙線生成核種蓄積年代試料やOSL年代試料の計測結果をもとに,大ヒマラヤ地域における最終氷期以降の浸食・山地解体プロセスの特性を,カタストロフィックな地形変化の観点から気候変動や地震などの地殻変動を考慮しながら明らかにする.そして,ネパール・大ヒマラヤ流域全体での浸食・削剥速度の算出に努める.また,巨大崩壊に伴う土砂・岩屑流出が,現在の河床勾配で長距離流動が可能か,あるいはどのような流下パターンであれば長距離流動するかを研究分担者による数値実験によって明らかにしていく.さらに,ヒマラヤ前縁部・マハバーラト山脈を横切るトリスリ川沿いに残された浸食段丘について宇宙線生成核種蓄積年代測定を実施し,同山脈の隆起と下刻速度を明らかにすることで,河谷沿いでの岩盤の歪み速度の算出を試みていく.それらの成果は,JpGUなどの学会で報告する.
理由:研究分担者・佐藤浩氏が次年度と合わせて海外出張費とするため.使用計画:2018年度配分の予算と合算して海外出張する経費に充てる.
すべて 2018 2017
すべて 雑誌論文 (9件) (うち国際共著 5件、 査読あり 7件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (8件) (うち国際学会 5件)
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