マルチエージェントシミュレーションは防災・減災をはじめとする様々な社会問題解決のための分析・予測手法としても注目を集めている。本研究は、知的エージェントの学習プロセスの設計・構築、地域の特徴を考慮したシミュレーションによる避難方式の検討とレジリエントな減災の構造化を取り組んできた。 まず、災害救助ロボットをマルチエージェントとし、フィールド上に配置された全ての負傷者を効率的に救助する「災害救助問題」をモデル化した。知的エージェントが強化学習により周囲の環境を認識し、自律的に負傷者を救助できるマルチエージェントシステムを構築した。協調性のある知的エージェントをデザインするために、負傷者救助を優先するエージェントとガレキ撤去を優先するエージェントに分け、異なる報酬値の与え方で役割分担させ、効率的な救助ができた結果が得られた。 次に、津波による人的な被害を低減し、人々が速やかに避難できるような避難計画を立るための津波避難シミュレーションシステムを作成した。避難エージェントと誘導エージェントからなるマルチエージェントシステムを用いて、避難誘導における最適な誘導員の配置条件と割合などを検討した。また、地元を対象として比較実験も行った。シミュレーションの結果から避難誘導開始人数が多ければ避難効率が減少することが分かった。 最後に、レジリエントな減災・防災の知見の構造化を実現するために、マルチエージェントがトリアージの緊急度に応じた負傷者救助と障害物撤去の協調行動の獲得を試みた。容体に応じた報酬配分、貢献度に基づく報酬配分、容体に応じた貢献度による報酬配分の3つの報酬配分を提案し、災害救助問題に対する報酬配分の有効性を検証した。実験の結果から容体に応じた貢献度による報酬配分は、エージェントが緊急度の高い負傷者を救助するほど高い報酬値を得るように学習でき、効率的な救助ができた。
|