研究課題/領域番号 |
16K01687
|
研究機関 | 畿央大学 |
研究代表者 |
辰巳 智則 畿央大学, 教育学部, 准教授 (30441447)
|
研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
|
キーワード | スポーツ傷害受容 / 情動調整 / ソーシャル・サポート / 心理社会的回復要因 / 心理支援 |
研究実績の概要 |
前採択課題(2013―2015年度・課題番号25560332)では、スポーツ傷害受容を促進する心理社会的回復要因を同定し、双方で構成されるプロセスをスポーツ傷害受容プロセスと命名した。なお、心理社会的回復要因の中でも「情緒的安定性」の回復とスポーツ傷害受容との関連性が強く、この要因の回復を調節する要因(モデレーター)を加味した分析の有効性が示唆された。そこで本研究ではこの要因として、負傷競技者が自ら行使している「情動調整行動」と他者から実行された「ソーシャル・サポート」を取り上げ、これらの要因とスポーツ傷害受容プロセスとの関連性を検討することを目的とした。 本研究は、上記の目的に対し、量的研究(課題1)と質的研究(課題2)の二つの研究手法を用いた段階的な研究計画を以て遂行するものである。初年度である2016年度は、課題1を主として遂行した。具体的には、前年度までに収集された横断的データに基づき、情動調整行動がスポーツ傷害受容プロセスに及ぼす影響過程を実行されたソーシャル・サポートの認知度の差異から量的な検討を試みた。ここで明らかにされたのは、①負傷競技者に対して実行されているソーシャル・サポートの種類、②実行されたソーシャル・サポートへの負傷競技者の認知度の差異と行使される情動調整行動の種類の異同、及びスポーツ傷害受容に至るパターンの異同であった。上記の研究成果は、2016年12月にメルボルンで開催された国際行動医学会にて発表した上、3月末日時点においては、国際ジャーナルに投稿準備中である。また、この研究に先立ち、本研究課題・計画に至る研究成果をまとめたレビュー研究を2016年7月に横浜で開催された国際心理学会にて発表した。 なお、課題2に先立つ面接バッテリーの作成のため、1名の負傷事例に基づく質的検討を課題1と同時進行で遂行中である。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究は、量的研究による課題1と質的研究による課題2で構成され、課題2の遂行以前に、課題1の成果が一定に承認されていることを理想とする。課題1は、前年度までに収集した量的データを用い、負傷競技者が行使していた情動調整行動とスポーツ傷害受容プロセスとの関連を重要な他者から実行されたソーシャル・サポートへの認知度の差異から検討するというものである。他方、課題2の質的研究は、量的研究では捉えづらい時系列や負傷競技者の情動調整と重要な他者からのソーシャル・サポートとの相互作用の実態に迫るというものである。すなわち課題2は、課題1の研究成果が学術ジャーナルにおける論文の公開といった一定の社会的コンセンサスが得られていることを前提に遂行させるのが望ましい。課題1で明らかになることの第一は、重要な他者が負傷競技者に対して実行しているソーシャル・サポートの枠組み・種類である。第二に明らかにされることは、実行されたサポートの程度と負傷競技者による情動調整行動及びその後のスポーツ傷害受容プロセスの異同にある。2016年度の上半期からこれらを量的に実証するための研究を遂行し、その成果を国際行動医学会にて報告するなどもしてきたが、3月末日時点では、論文としての社会公開までには至らなかった。このことが内定時に計画していた課題2へのスムーズな移行を困難にさせた。以上が2016年度の達成度を「やや遅れている」と自己評価した理由である。 しかし一方では、課題1への対応の過程で見出した反省点は、課題2の遂行に先立ち予定していた面接バッテリーの開発に大きく寄与した。課題1の遂行に並行し、すでに1名を対象に試験的に実施していた面接調査の逐語に質的検討を加えてきた。そこでは、課題1の量的検討における限界点が浮き彫りとなり、課題2の面接構造に関する改善点を見出すことが可能となった。
|
今後の研究の推進方策 |
内定後に示した実施計画では、2016年度下半期に課題2の遂行に係る訪問面接調査の準備を行う予定にあった。具体的には、①面接構造の構築、②逐語データの分析法の構築、③調査協力者のリストアップ、の3点に取り組むことを予定していた。この内の①に関しては、被面接者に事前に配布する面接概要・計画、質問構造に関する説明書、面接シートの原案を作成するに至っている。また、②に関しては、既に試験的に実施された1名の面接調査から得た逐語データを検討し、負傷競技者の負傷―競技復帰の時系列を扱える方法として、複線経路・等至性モデルや事例モンタージュ法の有効性を確認している。しかし、③に関しては、概ね着手できていない。 当初、2016年度下半期の計画として、調査協力者となる候補者を仲介者の意見をふまえ、30名程度リストアップすることを挙げていた。最終的にはサンプル数を10―15名程度とする計画にあるが、未だ数名の候補者を挙げるに止まっている。候補者となる人物のリストアップが急がれる。 具体的な方策として、体育・スポーツ学系の学部・学科・コースを有する大学の教育研究者(仲介者)をピックアップし、候補となる元負傷競技者をリストアップしていくこととする。次に、研究代表者が候補者に訪問面接調査を打診し、まずは口頭での協力意思を確認し、書面にて同意を求める。以上の手続きを2017年度上半期に行い、下半期に面接調査への移行を図ることとする。2017年度内に約10名の調査を完遂し、逐語データを整理・吟味し、スポーツ傷害受容に至るプロセスについて一旦可視化を図る。2018年度上半期には残りの約5名の調査を行い、結論の整合性の確認を図る。最終的には、2018年度下半期にて、情動調整とソーシャル・サポートの相互作用にまつわるエピソードに焦点をあて、どのような相互作用がスポーツ傷害受容に寄与するのか、一定の結論を得たい。
|
次年度使用額が生じた理由 |
投稿論文の校閲に関する見積もり(\200,000程度)が3月末日、納品が4月上旬となったためである。
|
次年度使用額の使用計画 |
納品が次年度4月上旬となるため、次年度に繰り越し、決済致します。
|