研究課題
申請者らは健康長寿マーカーの策定につなげるため、これまでに超百寿者(105歳以上)の血漿タンパク質のN-結合型糖鎖を解析し、超百寿者に特徴的な糖鎖構造を明らかにした。そこで本研究ではさらに深化させ、これらの糖鎖が結合しているキャリアタンパク質、同一人の加齢による糖鎖変化(縦断的変化)、シアル酸の結合様式、について検討する。本年度は、糖ペプチド解析を行い、超百寿者に特徴的な糖ペプチドを明らかにした。また、α2,3-結合シアル酸とα2,6-結合シアル酸を質量分析で区別して分析するための誘導体化法を構築した。1.超百寿者群(106-107歳)、高齢対照群(80歳代)、若齢対照群(20-30歳)の血漿中より、Erythrina cristagalli agglutinin (ECA)レクチンに結合する糖タンパク質を回収した。トリプシン消化後、LC-MS/MS (LTQ-FT)を用いてキャリアタンパク質の同定と糖鎖構造解析を行ったところ、47種類のタンパク質が同定され、35種類の糖ペプチドが同定された。これらの糖ペプチドのピーク面積を用いて多変量解析(OPLS-DA)を行ったところ、ハプトグロビンの2か所のアスパラギン残基(207Nと211N)に結合した高シアル酸含有3本鎖糖鎖が、超百寿者に特徴的であることを明らかにした。2.Sialic acid linkage specific alkylamidation (SALSA)法を開発した。この方法は、α2,3-結合とα2,6-結合の立体的な違いを利用して、それぞれ異なる分子量の誘導体にするものである。具体的には、イソプロピルアミド化とメチルアミド化を組み合わせることにより、α2,3-結合シアル酸とα2,6-結合シアル酸に28Daの分子量差をつけ、質量分析でこれらを区別することが可能であることを明らかにした。
2: おおむね順調に進展している
本年度の予定であった、超百寿者血漿タンパク質の糖ペプチド解析とシアル酸結合様式を区別する方法について、成果が得られたため、おおむね計画の通りに進行している。
来年度は、次の2点に焦点を絞って検討する。1.加齢による糖鎖構造変化の縦断研究SONICは、70歳、80歳、90歳、100歳を対象とした大規模な縦断調査コホート(約3,000名)であり、採血などの医学検査の他、運動機能、認知機能、心理・社会的要因、歯学的要因について、3年ごとに継続調査を行っている。そこで、初回調査と継続調査の両方に参加した健康な70歳、80歳、90歳からそれぞれ無作為にサンプルを抽出してN-結合型糖鎖の糖鎖解析を行い、同一人において加齢により高分岐かつ高シアル酸含有糖鎖が増加するかどうか明らかにする。併せて、炎症マーカー(CRP、IL-6、TNF-alphaなど)との比較も行い、加齢により亢進する慢性炎症と高分岐かつ高シアル酸含有糖鎖の増加との関連について考察する。2.超百寿者におけるシアル酸結合様式の解析今年度に構築したシアル酸結合様式の分別誘導体化システムを用いて、超百寿者群及び対照群の血漿タンパク質におけるN-結合型シアル酸含有糖鎖を誘導体化する。MALDI-TOF/MSを用いて解析を行い、超百寿に特徴的なシアル酸の結合様式について明らかにし、免疫応答、感染、炎症などにおける高分岐かつ高シアル酸含有糖鎖増加の生物学的意義について考察する。
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Anal. Chem.
巻: 89 ページ: 2353-2360
10.1021/acs.analchem.6b04150.
http://www.tmghig.jp/J_TMIG/kenkyu/team/proteome.html
http://www.tmghig.jp/J_TMIG/release/release27.html