研究課題/領域番号 |
16K01911
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研究機関 | 東京海洋大学 |
研究代表者 |
永井 宏史 東京海洋大学, 学術研究院, 教授 (50291026)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 刺胞動物 / ハブクラゲ / 痛み / 炎症 / ラン藻 / アプリシアトキシン |
研究実績の概要 |
刺胞動物のうち特にハブクラゲを代表生物として研究を行った。ハブクラゲが有する毒素を局在させている特殊な器官である刺胞の単離を行い、単離した刺胞からの化合物の探索を行った。また、刺胞からの毒液の抽出法の改善を採集現場である沖縄で行った。その結果、新鮮なハブクラゲ触手をエタノールに触れさせるとほぼすべての刺胞が発射されることを見出した。つまり、採取したばかりの触手をエタノールに浸漬することにより刺胞から極めて効率よく刺胞内物質を回収できることを見出した。この手法は今後の研究を行う上で大きな威力を発揮することが予想される。これは我々が以前ハブクラゲの刺胞内に存在を見出した痛み惹起物質の回収にも効果があると推測される。それは、すでに本痛み惹起物質はエタノールに耐性があることが確認されている。また、刺胞動物以外でも痛みや炎症の惹起物質の存在が知られている。今回、沖縄産のラン藻から細胞毒性などを指標としてアプリシアトキシンの類縁体化合物を複数単離してそれらの構造を決定した。その結果、3つの新規アプリシアトキシンの単離に成功した。アプリシアトキシンそのものはプロテインキナーゼCの活性化を行い強力な発ガンプロモーターであることが知られている。そのためにアプリシアトキシンは微細藻類によるswimmer's itchと呼ばれる海水浴客が被る皮膚炎の原因化合物として知られている。今回単離された化合物群も同様にヒトに対して同様の被害を引き起こす可能性が考えられる。これらの化合物のもつ活性については今後解明していく必要がある。このアプリシアトキシン類を得た試料は2010年に沖縄県において大量発生したラン藻 Moorea producensであり、発生当初から海水浴客の被害が心配されてビーチが閉鎖されたときの試料である。今後もこれらラン藻の発生状況のモニタリングを続けていく必要がある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
刺胞動物のハブクラゲの刺胞からの抽出法の改善を行った。つまり、採取したばかりの触手をエタノールに浸漬することにより刺胞から極めて効率よく刺胞内物質を回収できることを見出した。この手法は今後の研究を行う上で大きな威力を発揮することが予想される。これは我々が以前ハブクラゲの刺胞内に存在を見出した痛み惹起物質の回収にも効果があると推測される。それは、すでに本痛み惹起物質はエタノールに耐性があることが確認されている。 今回、沖縄産のラン藻から細胞毒性などを指標としてアプリシアトキシンの類縁体化合物を複数単離してそれらの構造を決定した。その結果、3つの新規アプリシアトキシンの単離に成功した。これの活性についてはいまだよくわかっていないがアプリシアトキシン同様に強い炎症作用を有することが考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
今回新たに開発された方法で作成されたハブクラゲ刺胞抽出物は、刺胞から活性物質を効率よく抽出しているので今後この抽出物中の成分を精査していきたい。手法としては生物活性試験を指標としてHPLCを用いて化合物を単離していくことを考えている。またLC-MSも利用して成分探索の指標とした。ただし、活性成分は新規化合物である可能性が高いことなどからLC-MSはあくまでも副次的な方法になるのではと予想している。 ラン藻類からは生物活性を指標として各種化合物を順次単離していく予定である。今まで東京湾沿岸のラン藻についてはその生物活性などが研究された例がない。しかし、東京湾ではラン藻に起因するかもしれない重篤な食中毒が発生している。そこで東京湾に生息するラン藻も研究対象として加えていく。今後、東京湾の各所でラン藻を採取してその毒性などを調査する予定である。
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