海洋危険生物のなかにはヒトに対して刺傷被害を与えるものが存在する。クラゲなどはその典型的な生物である。なかでも国内で沖縄地方に生息する立方クラゲであるハブクラゲはときとして致死にいたる刺傷被害を与えるなど、代表的な危険種である。このクラゲに刺されると瞬間的に猛烈な痛みに襲われるが、その痛みは化学物質が関係していると考えられた。ところでこれまでクラゲを含めた海洋危険生物のもつ痛み惹起物質について研究された例は見当たらない。そこで、このハブクラゲの有する痛み惹起物質について解明を試みた。その結果、ハブクラゲ刺胞からエタノールにより極めて効率良く発射して、その刺胞内液を得ることに成功した。また痛み惹起物質は低分子でエタノールに可溶なことなどを見出した。現在、この痛み惹起物質の単離法に検討を加えている。ところで、ハブクラゲ同様に炎症惹起物質の存在が知られている沖縄産のラン藻から細胞毒性などを指標としてアプリシアトキシンの類縁体化合物を複数単離してそれらの構造を決定した。アプリシアトキシンそのものはプロテインキナーゼCの活性化を行い強力な発ガンプロモーターであることが知られている。そのためにアプリシアトキシンは微細藻類による海水浴客が被る皮膚炎の原因化合物として知られている。今回単離された化合物群も皮膚炎を引き起こす可能性が考えられ、今後天然毒による被害症例発症時の標品として役立つ可能性が十分に考えられる。
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