2022年度は、本課題の研究期間の最終年度として、これまでに実施した調査と発表した論文等を振り返り、さらなる考察と総括を行った。本研究は、第二次世界大戦後の先住民政策に関する公文書、新聞・雑誌記事、先住民部族の記録、先住民個人の手記や自伝等の史料を調査して分析し、冷戦期の米国西部における土地・資源開発が地元の先住民部族と先住民政策にもたらした影響を検証した。 当時、ワシントン、ネバダ、アリゾナ、ニューメキシコ等の各州で進められた開発は、地元のヤカマやナヴァホ、ウェスタン・ショショーニといった各部族の土地権や生活環境、健康を脅かしてきた。ワシントン州東部のハンフォード核施設やアリゾナ州北部のウラン採掘は米国政府の核兵器開発と結びつき、またネバダ州の先住民土地問題も核実験場や軍の基地拡大と関わっていた。これらには、西部の土地・資源開発を促進することによって、連邦補助金と地元の経済発展を求めた各州選出の連邦議員や政治家の働きかけがあり、彼らは当時の先住民政策にも大きな影響をもたらした。一方、地元の先住民部族はこれらの動きに対し、ローカル・ナショナルなレベルで様々な対応と抵抗を試みていたことが明らかとなった。 第二次世界大戦後のアメリカ先住民の歴史は、1950年代の同化主義的な連邦管理終結政策に対して、1960年代に先住民の権利運動のレッドパワーが起こり、1970年代に自治を尊重する自決政策へ転換した後、1980年代以降の経済開発政策の流れで捉えられてきた。しかし、この時期に米国西部の土地・資源開発が冷戦を背景として拡大し、地元の先住民部族や連邦先住民政策に影響を及ぼしたことはこれまで十分に検討されてこなかった。このような先住民の戦後史を明らかにすることによって、米国現代史の新たな一側面を明らかにすることができたと思われる。
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