研究課題/領域番号 |
16K02087
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研究機関 | 桃山学院大学 |
研究代表者 |
大野 哲也 桃山学院大学, 社会学部, 教授 (40598075)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 災害復興 / ツーリズム / ネパール / 文化の真正性 / アクターネットワーク / ガイドブック / ボランティア |
研究実績の概要 |
平成29年度は、29年8月に7日間と30年2月に17日間の2回、ネパールにてフィールドワークを実施した。本研究のメインテーマであるガイドブックと復興の関係性についての調査・研究は順調にすすんでいる。29年度はラリトプル市の市役所への聞き取りや、主な調査地であるラリトプル市の世界遺産ダルバール広場周辺のコミュニティについての地域調査をメインにおこなった。また、ネパールで活動をする国際協力機構(JICA)の青年海外協力隊の隊員へのインタビュー調査を実施した。 その結果、日本などの国からの援助によって世界遺産の修復がすすみ、それに連動するように日本を含めた世界各国からの観光客が再び増加する傾向にあることがわかった。こうした観光客の増加によって土産物店の売り上げも右肩上がりになっていることがわかった。それによってダルバール広場周辺のコミュニティで暮らす人々、とくに観光関連の仕事に従事している人たちの生活にも明るい兆しが見えてきた。つまりそれぞれの要素が関連しながら復興という意味においてはプラスの循環が生まれつつあるのである。 また、青年海外協力隊としてさまざまな活動しているボランティアたちも、教育やスポーツという職種を連携させたプロジェクトを企画・実施して「草の根」レベルで災害復興に取り組んでいることがわかった。 学術的な研究成果については、29年度は、前任校の桐蔭横浜大学の紀要『桐蔭論叢』第36号(6月)に論文を執筆・掲載し、現在は第38号に論文を投稿中である。また、7月には観光学術学会第6回大会(査読付き、神戸山手大学)にて、11月には日本社会学会第90回大会(査読付き、東京大学)にて、12月には環境社会学会第56回大会(明治大学)にて発表をおこなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
現地におけるフィールドワークは非常に順調にすすんでいる。また、論文の執筆や学会発表についても予定したとおりにおこなうことができた。調査が進むにつれて、害獣問題や石畳の敷設にともなう文化の真正性に関する問題など、新たに調査・研究していきたいテーマが浮上してきた。 その一方で、勤務校における海外実習の引率(3週間)が夏季にあったため、当初はその時期に予定していた「2008年中国四川大地震」の災害復興の現地調査をおこなうことと、2013年から毎年参加していた宮城県気仙沼市における3.11震災復興ボランテイア活動に参加することができなかった。この2点が、「当初の計画以上に進んでいる」を選択できない唯一の理由である。 ネパールだけの調査ではなく、他の地震被災地との比較検討をとおして、はじめてグローバルな視点からの考察や検討ができると考えているので、30年度は四川をはじめ、「阪神・淡路」や「3.11」などにも赴き、災害復興の手法やプロセスの比較も視野にいれた調査・研究をおこなう予定である。
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今後の研究の推進方策 |
平成29年度におこなった現地でのフィールドワークのプロセスで、これまで想定していなかった新たな復興の「問題」を確認することができた。一つの「問題」は、被災した世界遺産周辺の道路を、従来のアスファルトやレンガから石畳に換えるるというプロジェクトである。行政は、被災した道路を修復するにあたり、石畳といういかにも伝統的で文化的な要素を新規に導入しようとしている。この石畳は、従来にはなかったものであり、また、たとえ雨で濡れていても滑らないように表面に細かいスリットが多数入ったハイテク仕様でもあるから、「文化の創造」といってよい。こうした真正性の創造は、倒壊した住宅にもいえる。新たに建築する場合には、窓枠の大きさ、建物全体の色調などが細かく指定されており、それは新築物件でありながらもいかにも伝統的なネパール様式を再現しているものなのだ。 もう一つの「問題」は害獣(サル)である。29年の暮れごろから30匹を超えるサルがダルバール広場周辺に住み着きはじめた。ネパールでは動物を殺す行為は禁止されている。また、そこに住まう人々は動物愛護の精神を発揮して頻繁に餌付けまでするので、サルが広場周辺にとどまり続けている。そればかりか、私が直接目撃した事例では、ダルバール広場で買い物帰りの女性を襲い食料を奪取したり、近隣の家を荒らしたりという被害が起きるようになった。 こうした直接的な「被害」を被った人たちは、サルに移動を促そうとはしているものの、コミュニティ全体としてみれば一部の人々が抱くこの危機感は共有されているとは言い難く、現在のところは「どうしようもない」状態が続いている。この状態が続けば観光客が襲われることも時間の問題だと思われる。 今年度は、従来の災害復興とガイドブックの関係性などの調査・研究に加えて、上記の問題についても同時並行的にフィールドワークを実施していく予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
2017年度末の精算が済んでいないため。
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