本研究の目的は大規模災害が頻発する現代世界において、甚大な被害を受けた地域社会の復興について、ツーリズムの可能性を検討することにあった。本研究が事例としたのは、2015年に大震災に見舞われたネパールのパタン地区である。 本研究で考察したのは、世界遺産であるパタン地区のダルバール広場周辺のコミュニティである。震災によって多くの人々が屋外での避難生活を強いられる中、日本のボランティアによって支援物資(テント、寝袋、毛布、浄水器など)が配布された。その後、先のボランティアの知人である日本人ボランティアが資金を出して高齢者向けのデイケアセンター(プレハブ)が建てられた。デイケアセンターは、現在、コミュニティの憩いの場として多くの人々に利用されている。つまり、震災がきっかけとなって、新たな人間関係や「生き方」が構築されてきたのである。また、破壊されたインフラストラクチャーを再建するプロセスで、文化の創造ともいえる、本来なかった石畳が導入された。これは世界銀行や諸外国からの援助によって敷設されつつあるものだが、これによってまちの砂埃が大幅に減少したという。つまり、そこで暮らす人々は、文化の創造をマイナスにとらえるどころか、生活の質を向上させるものとして歓迎しているのである。さらにこの石畳は、その「真正性」によって世界各国からやってくるツーリストに歓迎されてもいる。それがまた新たな人間関係やネットワークを構築するきっかけとなっている。本研究は、被災地域社会が災害からの復興を目指すとき、世界各地からやってくる災害ボランティアというような「ひと」や救援物資というような「モノ」が新たな人間関係を形成するキーとなり、そのような人とモノがつくるネットワークによってツーリズムが促進され、それが新たな社会の構築に対してプラスのフィードバックをもたらしている、ということを明らかにした。
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