本研究では近世社会における「士農工商」観を明らかにし、その種姓的構造を考察した。まず、江戸時代中期の町人身分の「士農工商」観や種姓観念を明らかにした。次に、中世以降の浄穢観念による社会的差別が、宗旨人別帳や本末帳の別帳化によって、近世の種姓的特質を有する点を考察した。 以上の検討から、浄穢観念と結びついた種姓的身分観が近世の社会的差別の根幹をなしていることが明らかとなった。〈役〉〈共同体〉〈職分〉などの近世の身分規定要因に加えて、浄穢観念と結びつく種姓的身分観が近代以降の差別残存の要因のひとつと考察した。さらに、この構造を信仰的に克服しようとする近世被差別民の身分志向を確認した。
|