この研究は、戦後日本の政治学者、丸山真男の思想を歴史的に考察すること、そのために1968-69年の東大紛争の実像を解明することをめざしている。東大紛争における丸山の思想については、未解明のことが多い。丸山が1968年11月8日に林健太郎文学部長の軟禁からの解放を求める声明に署名した以外、紛争について発言しなかったのはなぜか、12月23日に全共闘学生が法学部研究室を封鎖したとき、「軍国主義者もしなかった。ナチもしなかった。そんな暴挙だ」と言った意味は何か、1969年1月24日の大学問題シンポジウムでロマン主義的な「概念の解体」を指摘したのは妥当か、2月24日の文学部階段教室で「人生は形式です」と言った意味は何か、日本思想の「原型」から「古層」へと言葉を変えたのは表現の問題に過ぎず、東大紛争による思想の変化ではないというのは本当かなど。 一昨年度のこの報告では、そのようにいくつかの丸山の「発言」を手がかりとした問いを記したが、どれも容易に答えられる問いではなかった。爾来2年、研究開始から3年、丸山没後に公表された『自己内対話』の手記「春曙帖」を読み直すなどしながら、おおむね順調に研究を進めてきた。その研究成果も含めて著書『丸山真男と戦後民主主義』を世に問うつもりだったが、科研費の研究成果公開促進費(学術図書)への応募が4年続けて採択されなかった(「十分に市販性があるものと思われる」「既に類似の成果が刊行されている。出版社等の企画によって刊行するものではないかと思われる」「出版予定年度に刊行すべき必要性が低い」との審査所見で。4年めの所見は未見)。それを見越して、補助事業期間を延長して著書を刊行する計画を立てたら、幸いに延長が承認されたので、最後の4年めに一書をまとめることに力を注いでいる。
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