「東アジアから考える日本ナショナリズム論-戦争の記憶・表象の比較思想史研究として」の最終年であったが、前年に病気をしたこともあり、治療と回復に努める時間が長く思うように研究を進めることができなかった。 そんな中で、中国海南島に初めて行くことができた。強制労働の跡、万人坑、慰安所跡などを確認した。鉄鉱石を求めて、日本軍が早くから侵出した島であることはあまり知られていないが、いたるところに旧日本軍の痕跡が残されていることが分かった。 またこうした遺跡は、一般に、中国の愛国主義教育基地として利用価値の高いものは整備され大掛かりな建物が建てられたりしているが、海南島南部では、あまりそうした価値は見出されていないようで、さびれたり、草に埋もれそうな場所も多かった。ナショナリズムへの利用価値が見出されるかどうかで、全く扱いが違うことがよくわかった。 中国人の強制連行・強制労働をめぐって、花岡の慰霊祭に参加し、また、裁判闘争では強制連行強制労働の事実認定を高裁で勝ちとるなど、情勢にも若干の動きがあったが、それを追いかけるのみで、いまだ研究成果として報告できずにいる。 愛知県大府の強制連行についての研究も、少しずつ聞き取り等を進めてきており、また、新たな資料の発見もあったが、それを成果としてまとめる必要がある。すぐに取り掛かりたいと考えている。 日本ナショナリズムについてグローバル資本主義の中において考える必要を感じ始めたが、それが日中比較思想史として結実するにはもう少し時間が必要である。
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