研究課題/領域番号 |
16K02490
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
里内 克己 大阪大学, 言語文化研究科(言語文化専攻), 准教授 (10215874)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | トウェイン / 罪悪感 / 良心 / 伝記的事実 / 自伝 / 翻訳 |
研究実績の概要 |
研究の初年度においては、以前にマーク・トウェインの長編小説『それはどっちだったか』を翻訳刊行した際(2015年)に付した長い解説の続編にあたる論考「改訂される事実とフィクション――マーク・トウェインの未発表小説『それはとっちだったか』の来歴を探る」を完成した。本論考は査読を経て、『言語文化研究』第43号(2017年3月)に掲載された。この論考では、フィクション作品『それはどっちだったか』と、同時期に書かれた『自伝』の記述とを突き合わせ、この破天荒な小説がかなりの程度に作者トウェインをめぐる伝記的事実を踏まえている、自伝的作品であることを明らかにした。本論考では更に、『自伝』におけるサム・クレメンズの過剰な罪悪感の記述を手掛かりにして、やはり過剰な罪悪感に苛まれる人物を主人公に据えた『それはどっちだったか』の原型作品の系譜を辿ることも試み、その出発点が1876年に出版された『トム・ソーヤーの冒険』にあることを論証した。 以上の業績と並行して行なってきた複数の作業も挙げておきたい。この年度では、上にも触れたトウェインの代表作『トム・ソーヤーの冒険』を本格的に再検討する作業を開始し、ノートン・クリティカル・エディション所収の論文・資料の読解を皮切りに、主要論考を読破する作業を行なっている。同時に、完全版トウェイン『自伝』全3巻のなかでも、『それはどっちだったか』への唯一の言及が行なわれる第2巻を重点的に読む作業を行なっている。それに加えて、『ノース・アメリカン・レヴュー』に1906年より連載された抜粋版『自伝』の訳出を夏季休業中より開始し、現在のところ、予定通りに最初の三分の一(ペンギン版で数えると100頁程度)を超えたところまで進んだ。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画通り、長編小説『それはどっちだったか』と『自伝』との密接な関わりを明らかにする論考を、査読付きの学術誌に発表することができた。そこに、次に主たる分析の素材にすることを計画している『トム・ソーヤーの冒険』の分析も部分的に盛り込めたので、次の年度に『トム・ソーヤー』単独の作品論を書くための準備はかなり整ったと言える。完全版『自伝』全3巻の読解作業は思っている以上に時間がかかり、現在は第2巻の途中まで来ている。次年度は最終の第3巻にたどり着きたいと考えている。その代り、抜粋版『自伝』の訳出作業はスムーズに進み、当初予定していた三分の一の分量をかなり超えたところで年度末となった。以上のように、互いに関連する複数の作業を同時進行させて研究を進めているが、総じて今年度は、大幅な遅れや計画変更のない進捗であったと判断している。
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今後の研究の推進方策 |
2017年の2月に、ニューヨーク州エルマイラで開かれるマーク・トウェイン国際学会への発表募集に応募したが、残念ながら採用されなかった。これによって、当初計画していた2017年8月の海外での口頭発表は、不可能になった。したがって現在、研究成果を海外に向けて発信する別の方途(海外の学術雑誌への英語論文の投稿や、別の海外学会での口頭発表など)を探っている。また一方、国内の若手研究者たちからシンポジウム参加の誘いを受け、アメリカの現代小説をトウェイン作品とすり合わせて読解する新たな試みを始めているが、これを本研究課題の領域に可能な限り引きつけて、トウェイン小説作品に表出された罪悪感を手掛かりにして作品分析を行なうことを考えている。『自伝』の読解や訳出の作業については、当初の予定通りに進め、『トム・ソーヤーの冒険』の論考も、遅くとも研究の2年目でほぼ完成させることを目指している。
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次年度使用額が生じた理由 |
初年度の予算使用計画には、カリフォルニア大学バークレー校にあるバンクロフト図書館など、トウェイン研究の資料が多く保管されている主要アーカイブで調査をするための旅費を盛り込んでいた。だが結局、その年度の資料収集は国内で十分可能なものだった。図書購入には、当初予定していた以上の金額を使用したが、差し引きすると、当初計画していた予算を少し余らせる形で初年度の研究を終えることとなった。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度では基本的に、当初から計画した通りの予算執行を行なうつもりだが、国内の様々な大学や学会で調査・発表を行ない、各地の大学の研究者と交流・情報交換するなどの機会に対応し、研究調査の機動性を高めるため、通信用のモバイルルーターやタブレット等を購入する必要を感じている。計上していなかったその費用を盛り込む形で、当初の計画に変更を加え予算執行する予定である。
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