研究課題/領域番号 |
16K02570
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
丸田 千花子 慶應義塾大学, 経済学部(日吉), 准教授 (00548414)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | スペイン文学 / 小説 / 社会学と文学 / 知識人 |
研究実績の概要 |
本研究は、文学と社会学が融合する場としての小説についての研究である。本研究の目的は、社会学者・文学者であるフランシスコ・アヤラ(1906~2009)の小説において、自身の社会科学の論考から導き出された20世紀社会と危機についての理論が実践されていることを明らかにする。 平成28年度は、1.研究の基礎資料の収集と整理、2.1940年代前半の社会学の著作で示された論考と小説との関係についての研究、3.国際学会等における成果発表を行った。 1.スペインにおいて文献調査と収集を行った。特にアヤラ財団から未刊行の資料や図書館等での入手困難な資料の提供を受けたことは大きな成果だった。1940年代にアヤラが新聞、学芸誌、学術誌に寄稿した100本以上の記事やエッセイは、後に著作に纏められ全集に収録されているが、執筆当時の時代背景やアヤラの思想を正確に把握するために、時系列、分野ごとに整理し直した。また著作も改訂ごとに収録内容の変更がみられるため、研究対象時期に出版された版を入手した。 2.アヤラは1940年代前半の社会学の著作において欧米における自由主義の変遷を社会階級のそれと結びつけて検証している。これらの論考は『簒奪者』(1949)『仔羊の頭』(1949)や『犬死』(1950)において具体化されていることが明らかになり、社会学の著作と小説の密接な関連性について確認できた。 またアヤラの翻訳論についても分析した。この著作でアヤラは社会学者の視点からも翻訳を論じており、20世紀後半の翻訳学の理論形成に貢献しうる論考であることがわかった。 3.2.で示した研究内容を招待講演、国際学会で発表した。学会ではスペイン語圏文学に関する研究の最新動向を把握できた。またアヤラの研究者をはじめ、スペイン語圏文化の研究者と幅広く交流、情報交換できたことも有意義だった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成28年度の研究にかかる資料調査と分析を終了し、予定していた通り1940年代前半にアヤラが著した社会学の理論が、小説の諸要素の構成に実践的に取り入れられたことを解明した。研究成果準備の過程で、計画になかった社会学以外の分野での著作を分析したことで、平成28年度の研究に新たな視点からアプローチできたことは有意義であると考える。以上の研究の成果を学会等で2回発表し、同時に海外の研究者とこれまでの知見を共有しつつ議論できたことは、平成29年度の研究に重要な指針となる。
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今後の研究の推進方策 |
平成29年度は、まず平成28年度に口頭発表した内容を論文として学術雑誌に投稿することをめざす。また当初の計画通り、1940年代から1950年代にかけての社会学の著作でアヤラが言及している「社会の危機」の概念を明らかにする。アヤラは文芸批評でも間接的に抑圧的社会体制に対する懸念を表明していることが明らかになったため、社会学以外の分野の著作にも目を配りながら分析を進める。アヤラの「社会の危機」についての理論的な論考がどのように小説に反映されているかを考察し、学会で口頭発表し、レヴューを受けた後に論文化する。
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