研究課題/領域番号 |
16K02709
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研究機関 | 近畿大学 |
研究代表者 |
黒沢 宏和 近畿大学, 法学部, 教授 (20264468)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 古高ドイツ語 / ラテン語 / 聖書翻訳 / タツィアーン / モダリテート / 直説法 / 接続法 |
研究実績の概要 |
古高ドイツ語『タツィアーン』の法に関する最近の研究はKurosawa (2009) がある。この中で、ラテン語と古高ドイツ語間において法の異なる箇所が主文・副文併せ544例あることが報告されている。そのうち時称文は207例あり、その内訳はラテン語・古高ドイツ語間で、接続法から直説法への変換は198例であるのに対し、直説法から接続法への変換は9例と極めて少なくなっている。これに加え、古高ドイツ語での直説法の使用頻度が極めて高い。この2点が時称文の特徴と言える。 本年度は時称文の207例における法の不均衡の原因を解明することを第一の目的とした。2017年6月に、沖縄外国文学会第32回大会で「古高ドイツ語『タツィアーン』の時称文における接続法」と題して口頭発表し、研究成果の一部を発表した。その後、8月にはドイツへ赴き、レーゲンスブルク大学で文献収集を行った。その際、同学のグロイレ教授に本研究に関する貴重な助言を頂いた。これらの資料や学会発表後の質疑応答を踏まえ、研究内容をさらに修正・深化させ、その成果を『Southern Review』第32号へ投稿した。 本年度の研究成果として以下の2点が明らかとなった。 第一に、翻訳された後の古高ドイツ語の時称文に直説法と接続法が不均衡に表れる問題に関しては、時称文に直説法が現れる場合、この原因を手本となるラテン語特有の統語構造、即ち「歴史的cum」や「時制の一致」に求めた。他方、時称文に接続法が現れる場合、そもそも主文と副文の結束が統語論的にも意味論的にも弱化し、主文から副文への影響が及ぼしにくい為と結論づけた。 第二に、古高ドイツ語の時称文に直説法が現れる場合と接続法が現れる場合の差異は、モダリテートという観点からすれば、その強弱により3種類に分類されることが判明した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ラテン語から古高ドイツ語へと翻訳される際の法の不均衡に関して、副文の種類によって事情が異なることが明らかになりつつあるから。特に本年度考察した時称文は、事例が最も多いのに加え、直説法の使用頻度が極めて高いという特性がある。古高ドイツ語の時称文に、直説法が現れる場合と接続法が現れる場合の差異を、モダリテートの観点から解明する可能性を示唆した。
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今後の研究の推進方策 |
ラテン語から古高ドイツ語へと翻訳される際に、両言語の間で法の異なる箇所が散見されるが、来年度はthaz (nhd. dass)文を考察の対象としたい。他の副文とは異なり、thaz文ではいわゆる主文の影響によって古高ドイツ語の副文に接続法が現れる事例が少ない。これを少しでも解明することによって、古高ドイツ語の副文に直説法が現れる場合と接続法が現れる場合の表現内容の違いを、言語学的に説明し、ひいては古高ドイツ語期における接続法の本質に迫ることができればと考えている。
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