研究課題/領域番号 |
16K02842
|
研究機関 | 長崎大学 |
研究代表者 |
鈴木 章能 長崎大学, 教育学部, 教授 (70350733)
|
研究分担者 |
桑村 テレサ 京都学園大学, 国際交流センター, 准教授 (30639646)
|
研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
|
キーワード | 多国籍クラス / 外国語としての英語教育 / リーディング / ライティング / グローバリズム |
研究実績の概要 |
アジアの複数の非英語圏地域の留学生と日本人学生が混在する英語の授業が日本中の大学で増えつつある。リーディングとライティングの授業では正確な英語運用能力を身につけさせる必要があるが、学生の日本語と英語の語学力に格差のあることが多く、教師が授業で説明する方法(言語)をはじめ、各母語に起因する英語の間違い、各教育文化の違いに起因する学生の戸惑いやモチベーション等、多国籍クラスの同授業運営には解決すべき難しい課題がある。しかし、これらの課題に対応した教授法は確立されていない。大学の国際化が進み多国籍クラスが増加する中、同教授法の確立は喫緊の課題である。本研究では最も多いケースである中国・台湾・韓国・日本の学生が混在するEFL環境における英語のリーディング・ライティングの効果的な教授法を確立する。 こうした全体的見取り図の中、平成28年度は日本・中国・台湾・韓国における各々の教育文化について調査し、各々の典型的な英語学習の方法ならびに教育方法や文化によって異なる英語学習への情緒的反応や学習のつまずき等を比較分析し、また、各地域の学生が日本で英語の授業を受講する際、どのようなことに戸惑ったり、どのような教授法で効果が出にくいのかということについて分析し、各教育文化的な起因要素、ならびに差異を超えて東アジア諸国に共通する起因要素、さらに学習者として世界的に共通する起因要素を見出した。これらの要素を課題克服の焦点に設定し、その克服の方法を探究した。成果は研究発表(2件)ならびに国内外の英語教員が共有し利用できるように英語で著作物としてまとめて発表した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
多国籍クラスにおける各学習者の学習のつまづきならびにモチベーションの低さの要因について、各々の教育文化的要因と差異を超えた共通点を明らかにし、課題克服の方法を見出すことができた。 本研究で対象とするのは、語学力と学習のモチベーションが比較的低い日本・中国・台湾・韓国の学生たちだが、語学学習のつまづきとモチベーションの低さには相関関係があり、各々異なる教育文化で学習したものの、それまでの学習のつまづきによって自信を持てない、また自分にとって英語の実用性が意識できないために学習のモチベーションが低くなっているという点に共通項があることを発見した。加えて、東アジアの国々の学習者の特徴は、英語教育がいわゆる受験勉強と強い関係を持っている点、面子を強く意識する点、アジアの留学生は英語がわからないからこそ日本に留学してくる点が特徴的であることがわかった。 こうした点を踏まえて学習のモチベーションと語学力を向上させるためには、自己肯定の意識を持たせる工夫、ならびに英語が実社会でどのように必要とされるのか、すなわち「今後、なる可能性のある自己」「なりざるを得ない自己」を直視させる工夫が必要である。このことから、C. ロジャーズのStudent-centered educationによる教育、ならびにこれまで日本人学習者を対象に構築してきたE-job 100を用いた学習が効果的であるという仮説を立て、その効果を確認した。とくに、ロジャーズのStudent-centered educationは面子が邪魔をする東アジアの学習者に効果的であり、かつ、叱られる文化(韓国)と叱られない文化(中国・台湾)の両方に対応できる方法でもある。 また、3年目に確立する予定である教師が用いる説明言語の課題についても、およその目安を立てることができた。
|
今後の研究の推進方策 |
2年目は、予定通り、各学習者の第一言語を巡る問題(同問題に対する教師の知識の課題を含む)を解決する工夫に取り組む。非英語圏の学生たちにとって英語は外国語(EFL)である。外国語としての英語学習では第一言語に起因する誤解や間違いが起こる。したがって、第一言語との比較を通した説明が効果的である。だが、多国籍クラスでは第一言語が多様であり、教師は様々な母語に精通している必要がある。とはいえ、3カ国、4カ国、またそれ以上の言語に精通している教師は現実的にそれほどおらず、日本語と英語の比較から授業を展開することが少なくない。 こうした課題を克服するために、中国・台湾・韓国の学生が書く英語のコーパスを作り、各第一言語に起因する英語理解における間違いや難しいと感じられる点について分析を行う。同時に、初年度に目安を立てた授業での説明の方法 (言語)をさらに具体的なものとする。
|