研究実績の概要 |
2020年度は日本語母語話者の音韻知覚の特性をさらに探るべく調査を行い,「日本語母語話者の音韻知覚単位について:モーラ数と持続時間長の関係」という形で発表を行った。調査の概要は以下の通りである。 音声言語処理(知覚・認知・理解)のプロセスを解明する上で,その土台となる知覚単位について明らかにすることは母語のみならず母語の処理の影響を強く受ける外国語のリスニングプロセスを理解する上でも大変重要である。本研究では,日本語母語話者の音声言語の知覚単位について,日本語において重要な働きを担っているモーラとその持続時間長の観点から探るべく,次の2つのリサーチクエスチョン(RQ)を設定した:日本語母語話者の音韻性短期記憶において,RQ1: 刺激音(1モーラ)の持続時間長は短期記憶容量に影響を及ぼす,RQ2: 刺激音(1モーラ)の持続時間長が短いと連続する2モーラが知覚単位(unit)になる。日本語を母語とする大学生62名を対象に,日本語の母音(5種類)を用いた音韻スパン課題(一定間隔で提示される音韻をいくつ記憶できるか)を実施した。モーラの持続時間長10種類(150, 170, 190, 210, 230, 250, 270, 290, 310, 330 ms)とモーラ数(1 or 2)を変数とし,100種類の刺激音を作成した。2元配置の分散分析の結果,RQ 1・2共に支持された。つまり,モーラの持続時間長・モーラ数の両方が記憶数に影響を及ぼし,さらに,150・170 msの短いモーラについては連続する2モーラが知覚単位となっている可能性が示された。
|