本研究課題では、日本語を母語とする英語学習者の音声言語の知覚・認知のプロセスの解明に不可欠な、言語の知覚単位の解明を目的とした。音声言語の知覚においては、かなり習熟度の高い学習者であっても母語の影響が大きいことがこれまで報告されている。そのため、本研究課題では、日本語母語話者の言語知覚において、大きな役割を果たしているモーラの実在について調査を行った。本調査では、持続時間長に焦点を当て、5母音および閉音節/tan/を用い、それぞれ150 msから330 msまで20 ms刻みで長さを変えたものを刺激音とした。1モーラ・2モーラの知覚境界を調査した結果、250 msあたりにモーラ境界が存在する強い可能性が示された。次に言語の知覚とワーキングメモリの関係を考える際、チャンク(音韻ループで一つのかたまりとして捉えられる単位)を構成するのが単位が発話速度によって変動する可能性を調査した。その結果、発話速度が遅いと1モーラ、速いと2モーラが知覚単位となる可能性が示された。しかし、本結果は用紙に記入される形の調査であったため、統制が不十分な可能性がある。そのため、同様の調査をウェブ上のフォームを用い、条件をより統制した形で本年度実施した。その結果、モーラ長が210 msの場合のみ、2モーラの課題の記憶数が有意に高かった。この調査も最初の実験に比べると精度は高いと思われるものの、本来の認知心理学的手法(ボタン押しによるリアクションタイム計測を伴うもの)よりはかなり精度が落ちる。そのため再調査が必要であると考えているが、さらに実験を加えることで日本語を母語とする英語学習者の知覚単位と記憶の関係について有益なものになると考えられる。
|