本研究は、南アジアにおける冷戦構造について、研究史上希薄である経済援助と軍事援助の両面的視角から、1970年代初頭までのインド及びパキスタンをめぐる国際援助と南アジア地域秩序の再編過程を一次史料に基づいて検討することを課題としている。これまで、アジアにおける冷戦体制の成立とイギリス帝国の脱植民地化が同時進行していく過程について、イギリスからアメリカへのヘゲモニー移転問題ならびに国際援助、特にコロンボ・プランによる開発援助問題を取り上げて、戦後アジアの国際秩序の再編問題を検討してきたが、本研究は、南アジアに焦点を絞り、経済援助と軍事援助の両面から国際援助がもたらす南アジアの冷戦構造の再編とアジアの自立化への動きを検討することを目指している。 最終年度において、当初予定していた海外での一次資料収集の面では制限されたため、国内のアジア経済研究所図書館を中心にイギリスと南アジアの軍事関係の史料収集とその分析に終始せざるを得なかったが、これまで収集した資料分析を通じて、明治大学と東北学院大学における数回の研究会において以下の内容を確認できた。 イギリス脱植民地化と経済・軍事援助の関連については、代表の渡辺昭一は、パキスタンとインドの対立関係、およびスターリング・バランスの決済交渉に注目してマクミラン政権とケネディ政権による国際援助支援体制と南アジア防衛構築過程を、分担者の横井勝彦は、インド側の視点から1962年の中印紛争後のインドの軍事的自立化が急速に進展したことを明らかにした。 なお、その検討結果を東北学院大学での公開講座「冷戦変容期の南アジア世界」において披露する予定であったが、新型コロナウィルス問題でキャンセルとなった。今後2020年度中に日本経済評論社から著書を刊行する予定でいる。
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