パリ市の民事籍簿は1871年の火災により大半が焼失したが、その約3分の1は関連文書などをもとに復元され、代替の民事籍記録として用いられた。本研究は、この復元事業を調査することで、個人情報の管理についての行政・市民双方の意識を析出するものである。研究の結果、国とパリ市はおおむね事業を重要視していた一方で、協力を拒んだ行政組織もあったこと、住民にも無関心ないし消極的な姿勢がみられたことなどが明らかになった。19世紀後半のフランスは、統治機構の整備と公民意識の浸透のいずれにおいても、いまだ近代国家とは言いがたかったのである。
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