本研究は、イギリス政府が今日まで、植民地支配がもたらした苦痛や被害に対する謝罪や補償(「植民地支配責任」)の求めに応じようとしなかった背景に、かつて「文明化の使命」といわれた支配理念(近代西欧的理念)は決して否定しない、この国特有の歴史認識があったことを、歴史教科書やメディアにあらわれる植民地主義の過去をめぐる言説を中心に分析して明らかにした。そうした歴史認識を抱いている政府が、植民地主義下の虐殺等に対する賠償に応じる姿勢を見せながら、それらをあくまでも個別事例として扱い、植民地主義全体の不正義の問題は不問に付す一種の二重思考的態度を育んできた歴史的経緯を解明した。
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