本年度も「長崎と天草地方の潜伏キリシタン関連遺産」世界遺産登録の影響を中心に研究を行った。まず、世界遺産登録後の長崎県内のさまざまな取り組みについて、長崎県庁をはじめとする地方公共団体や観光関連団体の動向を調査した。また、現地調査としては、長崎市外海地区内の構成資産を有する集落を中心に参与観察および聞き取り調査を行った。さらに、昨年度から急増した潜伏キリシタン関連遺産に関する文献資料調査を行うとともに、近代以降のキリシタン研究関連資料も収集した。 これらの調査から明らかになったのは、行政の期待やマスメディアの注目度とは裏腹に、現地での取り組みは全体的に緩やかだということである。その主な要因としては、①少子高齢化・人口減少による担い手不足の問題、②地域に暮らす人びとの温度差、③宗教的な相違の3つがあげられる。①~③は密接に連関しており、改善へのハードルは高い。このことは地域社会の維持および文化遺産の維持管理にも直結する大きな問題だといえる。本遺産もまた研究代表者が長年研究してきた「白川郷」と同様の「生きている遺産」(リビングヘリテージ)だといえるが、「白川郷」以上の困難さを抱えていると考えられる。本年度の研究の意義は、こうした現状を明らかにしたことであるが、世界遺産登録の影響を見極めるにはもっと長期の観察・調査が必要である。本研究課題は今年度で終了するが、研究自体は今後も継続していく予定である。 なお、これまでの研究成果をもとに、学会(日本民俗学会第71回年会、2019年10月)やシンポジウム(長崎大学・国際基督教大学共同研究シンポジウム、2019年12月)において発表を行った。このシンポジウムの成果は2020年7月に書籍(共著)として刊行される予定である。また、地元(長崎県内)における本遺産への関心は非常に高く、純心大学長崎学研究所主催長崎学講座において講演も行った。
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