研究課題/領域番号 |
16K03315
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研究機関 | 関西学院大学 |
研究代表者 |
前田 雅子 関西学院大学, 法学部, 教授 (90248196)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 生活保護 / 自立 / 勤労の義務 / 能力の活用 / 行政法 / 協働 / 生存権 / 社会保障 |
研究実績の概要 |
2016年度は、日本とドイツにおける最低生活保障給付の受給者個人の自立の支援に関する運用実態について、自立を支援するプロセスの有り様、行政機関が果たしている役割、民間機関を含む多職種・多機関の連携の仕組みを取り上げている文献・行政文書を読み込むとともに、ドイツにおいて8月の終わりから9月初めにかけて関係する行政組織・民間団体に対してヒアリング調査を実施し、さらに本研究課題について造詣の深い来日したドイツ人研究者と意見交換する機会を得た。以上の結果を踏まえて研究を進めた。 そのうち日本の生活保護法に関する成果については、「個人の自立を支援する行政の法的統制」と題した論文を、法と政治第67巻3号1頁~39頁(2016年11月)で発表した。本論文では、以上の課題認識を提示したうえで、生活保護法上の自立とその支援をテーマに掲げ、就労による経済的自立に価値を認める法的根拠はどこに求められるのか、また、最低生活保障と併せて個人の自立を支援するうえで、能力の活用、指導・指示さらに保護の不利益変更をどのようなものと捉えるのかについて、個人の自立を支援する行政の法的統制という視点から考察を行った。 その結果、まず、勤労を生存権具体化立法の給付条件とするか否かについて憲法27条1項は中立的であり、同時に、立法者は現行生活保護法において、就労拒否や就労意欲の喪失等について自己責任を問わない、つまり給付対象から排除しないという選択をすでに行っていること、次に、能力の活用は、これを保護実施要件として一貫させるのは生活保護法の解釈上困難であること、むしろ受給者に対する自立支援の一環として捉えるべきこと、生活保護受給者の自立とその支援のあり方については、多当事者の協働による自立支援という理論枠組みを観念すること、そして支援プロセス上に結節点となる協議という仕組みを設けることが適切、有効であるという結論に至った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2016年度中の研究のうち日本の生活保護法に関する成果について、「個人の自立を支援する行政の法的統制」と題した論文を、法と政治第67巻3号1頁~39頁(2016年11月)で発表することができた。本論文の執筆をつうじて、能力の活用は、これを保護実施要件として一貫させるのは生活保護法の解釈上困難であること、むしろ受給者に対する自立支援の一環として捉えるべきこと、生活保護受給者の自立とその支援のあり方については、多当事者の協働による自立支援という理論枠組みを観念すること、そして支援プロセス上に結節点となる協議という仕組みを設けることが適切、有効であるという結論を得ることができた。
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今後の研究の推進方策 |
2017年度は、引き続き、日本とドイツにおける最低生活保障給付の受給者個人に対する支援の運用実態について文献・行政文書を収集して検討を加え、また、ドイツに赴いて行政機関、民間団体、研究者等へのヒアリング調査を行う。そのほか、日本においても、生活困窮者に対する支援に関わる民間団体、研究者等へのヒアリング調査を実施する。 そのうえで、個人の自立する行政の法的統制という考察の視点に立脚しつつ、考察対象を能力の活用および指導・指示からさらに広げて、最低生活費の認定における行政判断のあり方とその統制についても検討を行い、以上の成果を踏まえて社会保障の論点に即した行政法の課題を提示することにしたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
2016年度は、研究資料の整理・専門知識の提供等のための人件費・謝金を使用しなかったこともあり、次年度使用額が生ずることとなった。
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次年度使用額の使用計画 |
2017年度は、2016年度に生じた次年度使用額を、当年度の助成金と併せて、研究課題の遂行に必要な物品の購入、ドイツをはじめ海外での調査旅費等のために活用することとする。
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