研究実績の概要 |
2018年度は、それまでの研究成果を基に、個人の自立を支援する行政の法的統制について、まず生活保護の給付決定を行う自治体の判断権限に焦点を当てた研究を行った。ここでは、自立助長の観点から、自治体が厚生労働省の通知類に拘束されずに厚生労働大臣の定める保護基準告示の対象外にある最低生活需要を認定する義務について考察した。その成果を踏まえて、2018年度日本地方自治学会(2018年11月10日開催)で「生活保護行政の法的統制--自立支援と自治体の判断権限という視点から」と題した報告を行った。 次に、給付決定のみならず、結果的に過剰となった給付にかかる費用返還を決定する場面に着眼して研究を行った。ドイツにおける調査では、最低生活保障給付とこれに優先する損害賠償または社会保険給付との調整が受給者を介さずに実施される手続が法定されており、その運用では、受給者に対して直接に費用返還を求める決定の法的統制が焦点となることが多くないものの、日本に類似した法的問題が生じていることが明らかとなった。そのうえで、費用返還という局面で受給者の自立助長を具体化する行政の判断過程において、行政庁が受給者の生活実態と自立助長を考慮する義務をどのように位置づけるかについての検討を行い、その成果を、「生活保護法第63条に基づく費用返還」と題した論文(関西学院大学法政学会、法と政治、第69巻第3号1頁(2018年11月)掲載)において発表した。 さらに、以上の成果を、加藤智章,菊池馨実,倉田聡,前田雅子『社会保障法〔第7版〕』(有斐閣、2019年)の第8章「公的扶助」において、社会保障法理論として体系化することを試みた。
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