研究課題/領域番号 |
16K03324
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
玉田 大 神戸大学, 法学研究科, 教授 (60362563)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 国際司法裁判所 / 管轄権 / 客観訴訟 / 訴えの利益 / 原告適格 / 当事者適格 / UNCLOS / 紛争解決 |
研究実績の概要 |
2017年度は、国際裁判における管轄権論の中でも、近年問題となっている「客観訴訟」に関する判例分析・学説整理を行った。ICJの近年の判例では、対世的義務の違反国に対して、他のすべての条約締約国が出訴適格(standing)を有するという判断が示されている(2012年の訴追引渡事件判決、2014年の捕鯨事件参照)。そこで、PCIJの判例に遡り、こうした客観訴訟が容認される根拠とその射程を分析した。その結果、PCIJからICJの判例変遷の中で、わずかに客観訴訟を容認する判断が蓄積されており、これに依拠したICJが客観訴訟を容認するに至っていることが明らかになった。以上の分析に関しては、2017年に論文「国際裁判における客観訴訟論」を発表した(国際法外交雑誌)。さらに、直近の裁判例としてICJの「核軍縮交渉義務事件」の判例分析を行った。本件も客観訴訟に含められる案件ではあるが、ICJは「紛争」概念を制限的に捉えることによって(認識要件の付加)、客観訴訟の可能性を狭めている。この点についても、同じく学会誌に判例評釈を執筆した。以上の分析を通じて、ICJが客観訴訟を一定程度容認しつつ、あまりにも拡張した形での(純粋な形態での)客観訴訟については未だに躊躇を示しており、今後、何らかの制約原理が見出されるであろう、という結論に至った。 なお、国際法上の紛争解決論の中で、国際裁判手続とその他の履行確保手段の異同についても分析を行った。すなわち、上記のような客観訴訟が容認される場合、伝統的な紛争解決機能に加えて、条約上の履行確保機能が付加されるという点を明らかにした。この点については別途論文を発表している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
国際裁判の管轄権拡張法理の1つとして、客観訴訟を対象とした研究を行い、研究業績を発表した。第1に、2017年に国際法学会の機関誌(国際法外交雑誌)に論文を掲載した(「国際裁判における客観訴訟論」)。これにより、近年の国際判例における管轄権行使拡張の一側面について詳細な分析を行うことができた。特に、訴えの利益概念、当事者適格・原告適格につき、国際判例を分析し、その拡張の根拠と制約可能性について明らかにした。第2に、核軍縮交渉事件の判例評釈を発表し、最新の判例に置いて、逆に客観訴訟が制約を受ける場面があることを明らかにした。なお、上記の分析の過程において、その他の国際裁判における類似の問題についても分析視点を広げることが可能となった。特に、国連海洋法条約上の紛争解決メカニズムにおいても同様の問題が生じていることが分かった。そこで、暫定的にではあるが、国際海洋法裁判所および附属書VII仲裁の判例(勧告的意見を含む)を分析し、客観訴訟が容認される可能性についても分析を行った。また、国際裁判と履行確保手続の比較分析についても論文を発表し、その相互関連性や接近現象について論じた。
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今後の研究の推進方策 |
国際司法裁判所における管轄権拡張法理に関しては、客観訴訟法理以外にもまだ分析を要する概念が残されている。今後は、客観訴訟法理についての比較分析(ICJとその他の紛争解決手続の比較検討)に加えて、他の法理についても分析を行う。第1に、瑕疵治癒原則を分析対象とする。近年の判例においては、適用事例と不適用事例の違いが問題となっている。そこで、今後の研究として、同原則の適用基準について明らかにする。以前に分析した論点ではあるが、近年の判例動向を踏まえて、改めて判例を読み直す。第2に、国連海洋法条約における管轄権判断の分析を行い、ICJの管轄権拡張法理との比較検討を行う。特に、前者の場合は附属書VII仲裁に強制的管轄権が設定されており、前提条件が大きく異なる。他方で、ITLOSと附属書VII仲裁における管轄権審査(選択的除外の該当性判断)は、ICJの管轄権判断との類似性・親和性が高く、比較分析の対象として重要と考えられる。また、既に一定程度の成果を収めている客観訴訟論についても、UNCLOS上の議論との比較分析を行う必要が残っている。実際に、ITLOS勧告的意見において客観訴訟が容認されており(2011年意見)、ICJの客観訴訟容認(2012年)に如何なる影響を与えたのかを分析する必要がある。
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次年度使用額が生じた理由 |
国際裁判手続に関しては(関連する紛争解決機関を含めて)膨大な数の洋書が出版されており、これらの洋書をリストアップして購入する際に、不可避的に円相場の変動に左右される。また、洋書の出版予定が定まっておらず、注文をしても実際には出版されない図書が複数存在したため、予算使用が想定外にずれこんだため。
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