研究課題/領域番号 |
16K03396
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研究機関 | 金沢大学 |
研究代表者 |
村上 裕 金沢大学, 法学系, 准教授 (80377374)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 会社分割 / 事業譲渡 / 債権者保護 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、会社分割・事業譲渡の在り方を、アメリカ法との比較法から示唆を得ることにある。この目的を達成するため、平成29年度においては、アメリカ法において会社分割・事業譲渡に対する法人格否認の法理の適用がどのようになされているか、判例を収集して分析を行った。しかし判例においては、一般的な法人格否認の法理と比して特徴的な傾向を確認することができなかった。またアメリカ法でほぼ唯一まとまった会社分割規制を有するペンシルヴァニア州会社法についても、公表されている立法資料にも立ち戻って分析を行ったが、日本法への示唆という意味では残念ながら乏しいといわざるをえなかった。というのも、例えばペンシルヴァニア州会社法368条では詐害譲渡防止法が会社分割に適用される場合における分割会社・存続会社(新設会社)間での債務の割り当てについて定めているものの、どのような場合に詐害譲渡防止法が適用されるかは、同法に委ねているからである。このため、当初アメリカに赴き同州会社法の資料収集を行う予定であったが、意義が薄れたため、これを取りやめた。 もっとも、この検討過程でアメリカの詐害譲渡防止法と会社分割との関係についても検討したところ、会社分割を行う会社が事後に債権者から詐害譲渡の主張をされるのを防ぐいわばセーフ・ハーバーとして、会社分割によって分割会社・存続会社(新設会社)の支払能力が疑われるという場合に、投資銀行が発行するソルベンシー・オピニオンが比較的用いられているのを確認することができる。わが国でいうところの「履行の見込みに関する証明」に近いが、このオピニオンの存在はわずかに指摘されていたものの、近時オピニオンに着目して債権者保護を検討する研究は見当たらず、次年度の研究への大きな足掛かりを得た。 一方で日本法の研究も継続して進めており、注目すべき下級審判例について判例研究を複数公表した
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成28年度および29年度に予定していたアメリカ法における会社分割・事業譲渡における債権者保護の整理についてはやや遅れている。これは、「研究実績の概要」で述べた通り債権者保護に関連してソルベンシー・オピニオンに関する研究も、新たに行う必要が生じたことにもよる。しかしながら、日本法について判例の検討を足掛かりとして判例研究を公表でき、平成30年度に予定していた日本法の研究を先取りして行うことができた。この結果、おおむね順調に進展しているとの自己評価を行った。
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今後の研究の推進方策 |
平成30年度は、まずソルベンシー・オピニオンが問題となった判例・学説について、また余裕があればいわゆるフェアネス・オピニオンとの関係についても資料収集・分析を行う。これを完了したのち、平成28年度および29年度の研究によって得たアメリカ法における会社分割・事業譲渡における債権者保護についての研究成果をもとに日本法への示唆を得る。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が生じた理由として、主としては旅費として平成29年度分で50万の使用を予定していたが、一部の出張を行う意義が薄れたため取りやめたことによる。その分は洋書をはじめとする図書購入や、同じ研究テーマをもつ国内研究者との意見交換のための新たな出張などに充てたが、69,627円の次年度使用額が生じた。 この次年度使用額69,627円の使用計画としては、図書等の物品費に回して使用する。
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