本研究は、民事手続における審理判断対象と裁判の拘束力との関係をめぐる基礎理論と、これに関する近時の議論の展開を比較法的視点から分析検討することにより、その解釈論に一定の視座を提供することを目的とする。最終年度である今年度は、前年度に引き続き、国内民事訴訟法における訴訟物と既判力・信義則論の展開をフォローアップするとともに、とくに、ELI(European Law Institute)が行っているヨーロッパ訴訟原則の策定作業に注目し、調査を行った。EU各国においては、それぞれが独自の民事訴訟法を有しているが、EU域内での手続の近接化ないし調和化によって個人の権利保護を実効化することが必要であることが認識され、EU法の質を改善するために、2011年ELIが設立された。これは、いわば手続のミニマムスタンダードを確立し、各国民事訴訟法の改正や解釈に一定の指針を与えるモデル規則を起草することを目的とする。このような統一化ないし協調の動きは、欧州民事訴訟法モデル法起草委員会の作業(1987年)や、ALI(American Law Institute)/UNIDROIRの国際民事訴訟原則の策定作業(2004年)を基礎とする。本研究との関係においては、とりわけ同モデル規則において、審判対象と既判力について、規律や考え方が異なる各国の民事訴訟法を統一することが可能か、また統一するとしてどのように規律しようとするか、が注目される。これに関して、同委員会のメンバーであるコンスタンツ大学(ドイツ)のシュタッドラー教授と面談し、同モデル起草の進捗状況および議論状況について情報提供を得た。既判力は、重要な論点としてWGにおいて議論されており、その成果は今年秋に公刊されるとのことであるが、現在これに関する原稿を執筆している。
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