本研究は「21世紀型経済協定」の拡大を手がかりに、アジア太平洋地域での対抗的地域経済協力関係を規定する要因として、経済協定と表裏一体の経済改革に対する先進民主国・発展途上民主化国の国内勢力の反発、および先進諸国主導の国際経済協力に対する権威主義国の対抗の2つの要因があるという議論を検証し、その含意を明らかにした。 ここでいう「21世紀型経済協定」とは通常の関税引下げに加えWTOのドーハ・ラウンドで議論されたが合意に至らなかった議題を含むもので、基本的には多国籍企業・国際投資家の国際活動拡大を支援するものである。ただ、こういう協定は国内の経済改革も要求するため、交渉各国で、輸入競争や産業空洞化を恐れる勢力や政府主導の経済発展・保護に依存する国内勢力の反発を惹起した。 従って、先進新民主国や発展途上民主化国の指導者は、成長戦略の一環として「21世紀型経済協定」を推進したものの、国内の反発が、先進諸国ではその推進を制約し、発展途上民主化国ではそれへの参加に対する賛否を増幅させた。このため、交渉に積極的な先進諸国は往々にして参加をためらう発展途上民主化国に政治的、経済的援助を提供して参加を促した。 これに対し、一党支配の権威主義体制では、開放的経済発展のための経済改革は、党の経済支配の根幹を揺るがすため、「21世紀型経済協定」にはむしろ反発し、代替戦略として、より統合度が低く、経済改革を要求しないような伝統的貿易協定による経済関係の強化を指向した。これらの国々では、伝統的な貿易協定での譲歩や、態度未定の発展途上国への経済的、政治的支援を提供することで、先進諸国とは対抗的な地域的経済協力の拡大・強化をめざした。 以上のような異なる政治経済体制の動態的相互作用の結果として、先進民主国中心と、権威主義国中心の地域的経済協力が対峙する図式がアジア太平洋で現出した。
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