研究課題/領域番号 |
16K03620
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
土井 康裕 名古屋大学, 経済学研究科, 准教授 (70508522)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 自由貿易 / 産業発展経路 / HOモデル / 実証分析 / マレーシア / シンガポール |
研究実績の概要 |
平成28年度の本研究課題の取り組みは、複数錐型ヘクシャー・オリーンモデル(HOモデル)を理論的背景とし、自由貿易地域における二国に共通した産業発展経路が存在するか実証的に分析することであった。ここでは分析対象として、マレーシアとシンガポールを取り上げた。その理由は、両国の経済規模が類似しており、さらに生産要素の相対的賦存量が大きく異なり、労働豊富なマレーシアと資本豊富なシンガポールという、HOモデルに即した産業特価がみられると考えられるからである。 本研究では、複数錐型HOモデルに基づいたSchott(2003)の手法を用い、各国の資本ストックと労働力人口、さらに製造業17分野の付加価値のデータを使った1980年から2010年までのデータを二つの期間に分けたパネルデータ分析を行い、比較検証した。また、Kiyota(2014)による同手法を応用した一国の時系列分析を参考にし、自由貿易によって市場が統合されている二国の産業発展経路を推計することができた。 結果として、1990年から2010年の分析において、より理論に即した推計結果を得ることができた。その理由は、1990年代前半にASEANによる自由貿易協定が結ばれ、マレーシアとシンガポールの間でも自由貿易が行われるようになり、財市場の統合が産業構造の連動を導き出したと考えられる。また、1990年以降の産業発展経路を見ると、分析期間の間、常にマレーシアが労働集約的な生産パターンに留まっていたのに対し、シンガポールは堅調な資本蓄積を進めたことにより資本集約的な生産パターンへと発展していったことがより理論に基づいた形で証明することができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまでの研究では、貿易依存型の経済成長を目指す自由貿易を互いに行っている二国において、経済政策の国際展開には多少なりとも差異がある場合の共同産業発展経路について分析を行った。また、相対的に労働人口が大きいマレーシアと政策的に資本の流入を進めたシンガポールにおける産業構造と経済発展について分析を進めた。背景として、この二国が両国間、さらに第三国と貿易の自由化を進めた結果として、マレーシアとシンガポールの経済発展にどのような効果が生まれたのか、1980年から2010年までの二国共有の産業発展経路を推計した。さらに、両国の関係をより明確にするため、1980年から2000年と1990年から2010年の二つの期間について産業発展経路を推計し、政策的な背景を踏まえて比較分析した。さらに、資本による効果を分析するのみではなく、労働に対する教育的な効果を分析することにより、二国の産業発展がどのように影響されたのかを分析した。 今後の展開としては、二国から複数国に分析対象を拡大し、複数国で時系列を使った分析を進めたいと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの二国間の産業発展経路に加え、今後は分析対象国数を増やし、複数国間における産業発展経路の分析を進めることを計画している。先進国は資本集約財と中間財、後進国では労働集約財と中間財を生産すると設定することにより、国家間の格差とキャッチアップ効果について分析できると考えている。このモデル設定により、両国で中間財を生産している反面、それぞれの国でしか生産しない財があり、その違いは産業構造の根本的な格差を生み出し、経済発展の違いが明確になる可能性がある。この生産性の格差と分業が経済統合地域内で明確に把握することこそ本稿の最も大きな課題である。 さらに、EUやアセアンの経済統合を進めている地域ごとに産業構造の生産量、生産性の比較を行う。Krugman-indexを使い、域内の最先進国や平均を基準とした産業構造の分業化を相対的に計算する。加えて、Dollar and Wolff[1994]の技術移転等によるCatch-Up効果を踏まえた収斂仮設について、経済統合地域の実証分析を行う。 最終段階として、上記三つの分析を包括的に捉え、経済政策によって進められる経済統合の深化が与える効果について分析とまとめを行う。特に、経済統合の段階やその他の政策的な条件を踏まえ、どのような直接効果と派生的な間接効果を生み出すのか分析を行う。
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