本研究では,人口が内生的に決まる状況下で,地方における補助政策変更がもたらす経済への影響について分析する。これまでの研究において,地方と都市(もしくはその他の地域全体)間での人口移動を考慮すると,地方における補助政策の変更は財の相対価格が変化する交易条件効果と失業下の地域での雇用創出効果の2つの効果に集約されることがわかっている。一方,地方の家計所得に関し,これらの効果は各々逆の方向に働くケースがあり,その場合の補助政策変更の作用経路や具体的含意についての詳細な知見が十分に得られていなかった。本年度の研究では,このケースである,完全雇用の都市と失業下の地方が存在する状況の詳細を明らかにした。ここで考察する地方の補助政策の変更は,家計への一括補助から,家計への労働補助や企業への生産補助等への変更である。家計の労働補助への変更の場合,都市から地方への人口移動を直接促すため,失業率や地方の所得が悪化する一方,生産補助等の場合,生産を直接刺激しこれらを改善する。加えて,地方が労働集約財(非労働集約財)を生産している場合には,都市からの人口移動に伴い労働集約財の相対価格が増加(減少)し,地方の所得は改善(悪化)する。この効果は通常小さいが,地方の生産財への選好が小さい場合には交易条件効果が大きく支配的となることがわかった。 さらに,人口内生の状況の1つとして,子供の存在が効用をもたらす家計の出生率選択下で,子の養育に消費財の購入が必要な状況が考えられる。地方と中央政府がある下で,中央政府が貨幣発行益を地方への一括補助とする貨幣経済において,地方政府が財購入や資本保有に対する補助や課税を行う状況が考え得る。中央政府が貨幣拡張を行うと貨幣保有よりも子供保有の魅力の方が増すため,中央政府の一括補助が大きくなるほど,地方政府は子供の養育負担が減る財購入補助を行う誘因が示される。
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