研究課題/領域番号 |
16K03698
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研究機関 | 富山大学 |
研究代表者 |
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 子どもの貧困 |
研究実績の概要 |
当初の計画通り、2つの手順に沿って分析を進めた。手順1として、「全国消費実態調査」の調査票に依拠する世帯別データを利用して、所得と消費を基準とした2種類の子どもの貧困率を算出した。手順2として、この両貧困率(所得基準と消費基準)を利用して分類される各世帯の所得・支出・資産負債等を詳細に比較分析し、両貧困率の間で異なる傾向(消費を基準にすると子どもの貧困率が低下)が発生する原因を検討した。この2つの貧困率(所得基準と消費基準)の差異の発生原因として、理由①消費の過大申告(消費基準による貧困世帯数が減少)、理由②所得の過少申告(所得基準による貧困世帯数が増大)、理由③消費の平準化(所得減少のショックに対する消費の平準化)の3点を検討した。 この分析により、所得基準で計測する場合と比較して、消費基準で計測した場合の方が子どもの貧困を示す世帯数が少なくなるという結果を得た。「全国消費実態調査」の最新版である2009年の調査について、子どもの貧困率は所得基準によると10.4%であったが、消費基準によれば7.6%となり、前者より低い数値となった。そして対象年をさらに拡大して(1989年、1994年、1999年、2004年)、同様の分析を実施したところ、分析対象年に関わらず2009年とほぼ同じ結果となった。 手順2では、この差異の発生要因として、以前に述べた3つの可能性を検討行い、消費基準による貧困率が低くなる主な原因が「①所得の過少申告」であるとする根拠は提示されたが、「②消費の過大申告」や「③消費の平準化」というその他の可能性を支持する十分な根拠は得られなかった。 この分析結果を、日本財政学会第73回大会と15th International Convention of East Asian Economic Association(バンドン、インドネシア)において報告した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2016年10月よりイギリスのヨーク大学にてサバティカル滞在中であり、海外にて「国民生活基礎調査」を利用する事が不可能であっため。ただし2017年10月に日本へ帰国後、速やかに当該調査の分析に着手する予定である。
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今後の研究の推進方策 |
当初の予定通り、物質的な観点から見た生活快適度や子ども関連支出(住宅取得能力等)といった指標から特定化された子どもの生活水準が低い世帯と、両貧困率で特定された貧困世帯について、世帯特性を詳細に照合することで、所得および消費基準で測った貧困指標の整合性を比較検討する。そのため家計調査のデータを整理・編集し世帯全体の計算を行い、所得および消費を基準にした2種類の子どもの貧困率を算出し、以下の4群に対象世帯を分類する:(1) 両基準による貧困世帯(所得および消費基準のいずれを利用しても貧困世帯)、(2) 所得基準のみ貧困世帯(所得基準で貧困だが消費基準では非貧困世帯)、(3) 消費基準のみ貧困世帯(消費基準で貧困だが所得基準では非貧困世帯)、(4) 非貧困世帯(所得もしくは消費基準のいずれを利用しても非貧困世帯) 次に「(2) 所得基準のみ貧困世帯」と「(3)消費基準のみ貧困世帯」の世帯群の属性を精査し、物質的な観点から見た生活快適度(住宅取得能力や主な家庭用機器有無等)の低い世帯を特定化する指標と、所得および消費基準による子どもの貧困率を照合し、両貧困率と生活水準を示す指標との整合性を詳細に分析する。 消費を基準とする貧困指標の方が生活水準をより正確に反映するという理論的・実証的根拠があるにも関わらず、所得を基準に算出して子どもの貧困世帯を特定した場合、次の2つの問題が生じる。第一に、実際には貧困層に属する子ども達ではないにも関わらず、「貧困」と分類されてしまう偽陽性の問題である(「(2) 所得基準のみ貧困世帯」に相当)。第二に、実際には貧困層に属する子ども達を特定できなくなる偽陰性の問題である(「(3)消費基準のみ貧困世帯」に相当)。日本における子どもの貧困分析において、こうした偽陽性や偽陰性の問題から、実際の状況と異なる世帯群に分類されてしまう状況を本研究にて推計する。
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次年度使用額が生じた理由 |
2016年10月より1年間、海外滞在のため科学研究費補助金の規則で一部の予算を利用できなかった。
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次年度使用額の使用計画 |
使用できなかった予算を2017年6月にLIS Cross-National Data Center(ルクセンブルク)のLIS Summer Workshopという研修会に参加し、家計データ分析に必要な知識を学ぶ予定である。
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