今年度は、当初の計画通り分析を進めた。「国民生活基礎調査」を利用して、以下の4群に対象世帯を分類した。(1) 両基準による貧困世帯(所得および消費基準のいずれを利用しても貧困世帯)、(2) 所得基準のみ貧困世帯(所得基準で貧困だが消費基準では非貧困世帯)、(3) 消費基準のみ貧困世帯(消費基準で貧困だが所得基準では非貧困世帯)、(4) 非貧困世帯(所得もしくは消費基準のいずれを利用しても非貧困世帯)である。 昨年度の研究で、生活水準の指標の選択に依存して、貧困に指定された世帯の内訳が大きく変化することが判明した。そこで今年度は「(2) 所得基準のみ貧困世帯」と「(3)消費基準のみ貧困世帯」の世帯群の属性を更に精査し、以下の点が明らかになった。第1に、「(2) 所得基準のみ貧困世帯」に分類されると母子世帯と自営業者世帯の割合は、「(3)消費基準のみ貧困世帯」に分類される同割合よりも大幅に大きい。第2に、育児費用と親への仕送りを子どもの生活水準指標を使って、上記4つの世帯群の間で比較した。その結果、全体的に「(2) 所得基準のみ貧困世帯」の子どもの生活水準指標は「(4) 非貧困世帯」に近い数値となった。他方、「(3) 消費基準のみ貧困世帯」の子どもの同指標は「(1) 両基準による貧困世帯」と同程度に低い数値となった。第3に、「(2) 所得基準のみ貧困世帯」の可処分所得と消費支出を比較し、各世帯群の貯蓄額(すなわち、可処分所得マイナス消費支出)を分析した。他の3つ世帯群と異なり、「(2) 所得基準のみ貧困世帯」のみにおいて貯蓄額が大幅な赤字となる傾向が判明した。この結果に基づき、バランスシートの世帯情報を利用して、「(2) 所得基準のみ貧困世帯」が自己申告している貯蓄赤字額とバランスシートの純資産額の減少額を比較することで、両変数大きな不整合が存在するという結果を得た。
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